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カツオかキハダか?マグロ漁業の資源状況と生態系への影響

マグロの水産資源が危機的な状況にあるという見出しを目にしたことがあるだろう。“Bleak outlook for sushi favourite as bluefin tuna levels drop 97 per cent(クロマグロの水準が97%低下し、寿司好きにとっては暗い見通し)” という記事がTelegraphに掲載された。CBS Newsでは、 “Sushi eaters pushing Pacific bluefin tuna to brink of extinction(寿司を食す人々が太平洋クロマグロを絶滅の危機に追い込む)”と報じた。

マグロを食べるかどうか検討するとき、水産資源の現状と私たちが消費するマグロの量が海洋生態系の変化にいかに影響するかを考察することが重要である。商業的に重要なマグロには、カツオ、ビンナガマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ、クロマグロの主要5種がある。それぞれの魚は異なる風味と食感を持ち、ポキ(ハワイの名物料理)からキャットフードまで、人間と動物のための様々な食品になっている。2016 ISSF Tuna Stock Status Updateによると、世界の水産資源の52%が持続可能なレベル、31%が乱獲されており、17% が中間レベルである。その中でも、クロマグロが特に問題となっている。

「太平洋クロマグロは未だに乱獲されており、状態は良くない。しかし、クロマグロのほとんどが10年前よりもより良い状態となっている。大西洋マグロの状態は改善している。未だ回復はしていないが、乱獲は停止している。」とAndre Boustany(Monterey Bay Aquarium/ネレウスプウグラム研究責任者/2011-2013フェロー)は話す。Boustanyは、マグロに関する広範な研究を行っており、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)米国セクションの諮問委員会のメンバーである。

カツオ資源とビンナガマグロの多くは、その生物量は健全で資源として持続可能である。キハダマグロとメバチマグロは中間の状態である。(Know your Tuna参照)しかし、クロマグロは現在持続不可能であり、その消費のほとんどが寿司となり日本で食されるため、日本以外のほとんどの人が食することはない。

「北米のレストランで寿司として食されるマグロは、だいたいキハダかメバチである。クロマグロは豊かな風味がある。アメリカではあまり風味のない魚が好まれるため、キハダが適している。キハダは脂が少ないためとろがない。クロマグロは脂がのり、風味が強い。ゆえに高級なのだ。」

魚資源が健全かどうかは、どれだけの魚が海から捕られているかで決まるが、それはまた各種の特性にも左右される。カツオは小さめで迅速かつ頻繁に生殖し、1年で成熟する。それに反して、クロマグロは、5〜15歳まで生殖せず、しかも生殖は1年に1度である。したがって、カツオは、クロマグロより早く資源量を充填することができ、漁業圧力に耐えうるのである。

一番問題になっているクロマグロ資源は、ほとんどが日本を含め世界中の高級寿司レストランで食されている。 Image by Lindsay Lafreniere.

混獲の問題

マグロ資源で持続可能な種もあるとはいえ、その資源が減ることは、生態系の変化に大きく影響している可能性がある。その主となる課題は、混獲、つまりターゲットを絞った商業種を漁獲する過程で捕獲され、負傷し、殺される魚、鳥、海洋哺乳類への影響だ。マグロの場合、カメ、海鳥、イルカ、および他の魚が漁業の過程で不必要に獲られている。

「東大西洋、ギニア湾、西太平洋では、特にカツオとキハダマグロの状態が悪い。これらの場所では、魚の集魚装置(FAD)を使用する。多くのサメ、エイ、カメ、メバチマグロの稚魚を混獲してしまう。これはカツオやキハダマグロを標的とした漁業で漁獲されるので、メバチマグロ資源が回復するのに影響している。」とBoustanyは話す。

漁師は、マグロが流木や浮遊物質の下に集まると気づいたため、集魚装置は、数百年から数千年使用されている。この装置は、海域を囲む巾着網と呼ばれる大きな網に取り付けられた人工浮遊物を使用して作動され、多量のマグロをすくい上げ、他の海洋種が混獲される。巾着網はマグロ漁の64%で使用されている。150km一条の縄に多くの釣り糸と釣り針を間隔をあけて取り付けた延縄漁業はマグロ漁の12%で使用されている。延縄漁業は、ウミガメ、鳥、サメが釣り針を食べて混獲されるという同様の問題がある。一本釣りで漁獲されるマグロは市場のおよそ9%で、ほとんど混獲がない。

「缶詰や調理されたマグロを食べる時、私は、一本釣りのビンナガマグロを選ぶ。また、レストランでは、そのマグロがどこで捕られたのか、地元のものなのか、どのように漁獲されたのか調べるようにしている。私が住んだことのある場所のほとんどでは、責任を持って魚を調達する意識があったので、それが可能であった。キハダマグロやビンナガマグロはかなり良い選択肢であると言えるが、それぞれ混獲の問題がある。レストランでマグロステーキや寿司を頼む時にできる限りのことをしてほしい。出所を調べてもらいたい。もし彼らが知っていれば、おそらく平均よりはまだましな方法で調達されたものだろう。」とBoustanyは話す。

クロマグロは、1時間に70キロも泳遊でき、21日間で海を渡る卓越した魚である。 Image “Tuna” by Vlad Karpinskiy, CC BY-NC-ND 2.0.

マグロの 未来

気候変動により、一般的に海洋種は、両極付近や深海の冷水域に向かって移動することが予想されている。Boustanyによると、幾つかのマグロ種の分布パターンですでに変化が見られているが、マグロのような非常に可動性の高い魚にとってはそれほど懸念されていない。「獲物が移動したり、海洋学的条件がある地域から別の地域に移った場合でも、マグロは30日で海を渡ることが出来るので、結構容易に適応できるだろう。しかし、より熱帯地域の産卵地では、大きな影響があるかもしれない。産卵地の適応度が低ければ、成魚一匹あたりの生殖産出量に大きな違いが見られる可能性がある。カツオやキハダマグロのような熱帯のマグロは、産卵した場所で生育し、年中産卵する。クロマグロは、亜極緯度で餌を得て、熱帯に泳ぎ戻って産卵する。」とBoustany話す。

さて、マグロの需要が高いために、代替源を探すべきであろうか。マグロは養殖(蓄養)されているが、天然魚資源には「養殖(蓄養)」は必ずしもその資源回復のための利益にはならないとBoustanyは考えている。

「一つ目はコストの問題である。マグロを市場規模に完全に飼育するのは海に出てそれを漁獲するより多くのコストがかかる。私たちは、魚を養殖することに成功したら、野生の個体群に対する漁業の圧力を減らせると考えていたが、これまでの漁業の歴史を見てその裏付けはない、これがもう一つの問題である。さらなる市場を創り出すことで、以前はプレミアム製品だった魚を実際に普及させることになり、現在は魚が量産されるという結果がほとんどだ。一方で、天然資源への漁業圧力は、量産魚であっても未だそのままである。多くの人が養殖を救世主だと思っているが、実のところそうではないのだ。」とBoustanyは話す。

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