研究ハイライト:
- 著者は、世界の1900を超える先住民コミュニティのデータベースを構築し、彼らが年間210万トン、また世界漁獲量全体の2%におよぶ水産物を消費していると推定した。
- 世界全体の一人当たりの年間水産消費量は19kg。それに対して沿岸先住民は一人当たり74kg消費している。また、国単位で見れば、先住民の水産消費量は、同国全体の平均水産消費量の15倍に達するという結果が得られた。
沿岸に住む先住民の一人当たりの水産消費量が、居住国全体の平均水産消費量の15倍に達するという研究結果が、PLOS ONEに発表された(太田義孝、アンドレス・シスネロス)。これは世界で初めて、先住民漁業をグローバルな規模で定量的に分析した論文であり、日本財団ネレウスプログラムがオリジナルに作成したデータベースをその基盤としている。また、本研究は、漁業政策と社会的人権を一環として捉え、食糧(料)主権と文化アイデンティティが国際海洋政策において重視されるべきであることを提起している。
「未だいろんな面で困難と向き合う必要のある先住民にとって、沿岸先住民による魚の消費を定量化する世界的データベースの構築は、非常に有益である。さらに重要なことは、食料としての魚の消費に関する情報をまとめることで、先住民の食料主権についての重要な問題が地球規模で映し出されるということだ。」とL’sɨtkuk 族チーフであるSherry Pictou は話す。
著者らは、水産消費量の世界平均が19kgである一方で、沿岸先住民の消費量が74kgと推定している。調査されたコミュニティには、認識されている先住民グループ、自己認識された少数グループ、小島嶼開発国が含まれる。これらのグループはすべて、迫害された歴史、また海洋環境への社会的、文化的な強いつながりを持っている。
「海は、沿岸先住民の食生活にとって不可欠であるが、それ以上に重要なことがある。これらのコミュニティでは、漁業の仕事というのは、自分たちを人として定義する文化への繋がりを形成する。漁業の目的とは、食すために魚を獲るということだけでなく、独自の文化を維持し、未来につなげるということだ。」と太田義孝(日本財団ネレウスプログラムディレクター・政策)は語る。
著者たちは、観測データを収集し、合わせて年間210万トンの水産物を消費する1900以上のコミュニティのデータベースを現地研究員と共に構築した。
「先住民問題が、定量的な方法で世界的調査がなされたのは、これが世界で初めてである。先住民が、国家的に認識されていなければ、彼らは国家レベルで存在しないのだ。この世界のデータベースは、先住民の規模や重要性を示し、彼らの意見を拡大するために非常に重要なものである。」とAndrés Cisneros-Montemayo(日本財団ネレウスプログラムマネージャー/リサーチアソシエイト)は話す。
これらのコミュニティの中では、海は食糧と経済的安全の重要な源であり、何千年もの間、彼らの文化遺産や精神的価値を形成してきた場である。この調査の見積もりには、水産物の消費量のみが含まれ、雇用および経済的観点からの数量は含まれていない。このように沿岸先住民は、海洋資源に依るところが大きいため、気候や生態系の変化による脆弱性が増している。
著者たちは、魚資源や生態系を保護するのはもちろんのこと、海によって成り立つ生活や文化を保護しなければならないと主張している。
「私たちの目標は、データと分析技術を提供することであるが、コミュニティレベルの取り組みをサポートすることでもある。私たちはグローバルな視点から調査したが、トップダウン式の解決策を示しているのではない。解決策は、先住民コミュニティからあがってくるべきである。国際法や政策による問題解決は重要だが、すべての取り組みは人々のニーズや状況に応じた形で適用されるべきである。」とCisneros-Montemayorは話す。
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【研究論文】はこちら http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0166681
日本財団ネレウスプログラムについて
ネレウスプログラムは、日本財団と世界の7つの大学・研究機関が連携し、2011年より分野横断的な研究を進める国際海洋プログラムである。海洋学、海洋生態学、国際海洋法、資源経済、海洋人類学などをはじめとする、自然科学・社会科学両面からのアプローチで『海の未来を予測し、豊かで美しい海を次世代へつなぐこと』を目的としている。
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