日本財団(The Nippon Foundation – NF)は、ブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia – UBC)と9年間、15億円規模で共同プログラム「NF-UBC ネレウス–未来の海を考える」をしている。このプログラムは、グローバルスケールで魚の資源と海の未来を予測し、その問題解決に寄与することを目的とした世界で唯一の総合的な海洋プログラム である。
本年12月にパリにて京都議定書に続く国際決議が期待されるCOP21会議が予定されており、現在気候変動による海洋環境の変化とその漁業への影響に関心が高まっている。6月30日付けにて、日本財団とネレウスプログラムが共同で発表する「ネレウスプログラム未来の海レポート」には、気候変動が海洋に及ぼす影響は、温暖化、酸性化、海面上昇という環境変化とともに魚種の分布移動や海洋生物多様性の減少などの海洋生態系の変化を導き、結果として全世界の漁業生産の低下を導く科学的な概要が述べられている。
プログラムダイレクターであるチェン准教授は、海温の上昇、酸性化などの世界規模での環境変化に対して「生物はそして漁業は過去には見られなかった変化を遂げるだろう」、「地域によって影響は異なり、いくらかの赤道周辺においては中期的(2050年)には商業種の漁獲可能性の40−60%の低下に陥る危険性がある。」と述べている。
共同研究責任者である、プリンストン大学のホルヘ・サルミエント教授は、「温暖化の影響は、世界の海の隅々までその生産力に影響を与える。海域の動きと海洋生態系の変化に関しては、より詳細な科学的予測が可能となっており、理解も進んでいる。その結果は楽観的とは言えず、またその進行を止め、海を元の状態に戻す可能性には悲観的にならざるを得ない」と述べている。
また、ネレウスプログラムのアドバイザーであり、世界的な漁業資源保全の権威であるダニエル・ポーリー教授は、「数年前、世界的な海と漁業の予測は過剰漁業だけに警鐘をならしておけば良かった。しかし、私たちは今新たな気候変動というストレスと対峙しなくてはならない。魚や海を守る事だけでは、人類は新たな脅威に対処が出来ない状況になってしまった」と述べている。
プログラムの総合的な統括を務める太田義孝博士は、 この問題の対応について「温暖化への適応策として、沿岸資源の多様な利用と持続可能な水産輸入が考慮されるべきである。気候変動が水産に関して勝敗者を決めてしまう事を阻む為にはより一層の国際協調と脆弱な沿岸域社会への思慮が必要となる。また日本は、自国の魚資源を大事にする事でこれまで培われた海と人の関係を充実させるべきだ」とのべ,その科学的な基盤となるネットワークとしてのネレウスプログラムの重要性を主張する。
日本財団 笹川陽平会長は、この発表にあたって「私たちは重大な局面に立たされています。海洋環境を取り巻く課題と向き合い、有効的な対策をとらなければ、人類は経済活動を維持していくどころか、存在すら危ぶまれます。
」とコメントし、「気候変動の影響など、未来に海に関わる問題は、既存の科学や政策研究と言った枠の中では捉えきれない。海洋という広い視点に根ざした人づくりこそと創造的な研究が、未来の海にとってはかけがえのない財産になるはず。 」とプログラムの重要性を述べた。
「NF-UBC ネレウス–未来の海を考える」は、日本財団とUBC Fisheries Centreが共同にて構築した「未来の海」のための海洋プログラムである。プログラムでは、 漁業管理、気候変動、環境政策、海洋生態学、社会経済学等の世界的エキスパートと研究機関を集結し、分野横断的な取り組みとして、魚資源の枯渇の解決の為の調査研究、人材育成、周知啓発を行っている 。
www.nereusprogram.org
日本財団は、海事、海洋、教育、社会保障、医療(ハンセン氏病制圧活動)等、多岐にわたって公益を目的とする助成、研究活動を行っている国際NPOである。近年、海洋関係においては、世界的な研究機関、各国政府、国際機関と協力して、国際的な海洋人材育成に取り組んでいる。その成果として、これまで世界100カ国から約640名の学生、研究者が支援を受けている。
http://www.nippon-foundation.or.jp/en/what/spotlight/ocean_outlook/