これは、気候変動による海と漁業への影響についてのシリーズで、今回は、ネレウスプログラムがCOP21 会議(気候変動枠組み条約)に備えて行った調査に焦点をあてる。
11月20日から12月1日にかけ、195カ国以上から国のトップがパリに集い、地球の未来について議論する。では、海は、議題にあがるのだろうか。
COP(Conference of Parties=締約国会議) 21とは、気候変動枠組み条約第21回締約国会議である。コペンハーゲンで開催されたCOP15以来、最も重要な気候変動に関するイベントだとして謳われてきた。 そのCOP15では、コペンハーゲン合意(失敗だったという見方が大勢をしめる政治協定)が留意された。そこで、太田義孝博士(ネレウスプログラムディレクター/政策担当)とウィリアム・チュン博士(ネレウスプログラムディレクター/科学担当)が、これらの交渉は成功するか否か、世界の海の未来のために何が問題となっているのか、また、気候変動の影響を軽減するために何をすべきかを討議した。
今年開催されるイベントがなぜそれほど重要なのか?
ウィリアム・チュン(以下チュン):この会議で制限値が設定されるということが、一つ挙げられる。目標は、今世紀末までの地球温暖化を+2度までに抑えるということである。現在の予想では、4〜4.5度上昇するとされている。2度の上昇までに抑えられたら、大きなリスクを避けるポイントとなる。
太田義孝(以下太田):南北、先進国、開発途上国、全ての国際社会が合意に至らなければならない時がきている。我々は、国益と地域の利益を超えて前進しなければならない。
この公約は可能であるのか?
チュン:容易ではないが、達成するためにあらゆる努力をする必要がある。この議論の前に、CO2排出量削減のための公約を提出するよう、それぞれの国が招請された。しかし、既存のすべての公約を合わせても、今世紀末までに抑えられる地球温暖化は3.5度だと推定されている。そしてこれは、海の生態系と生態系にもたらされる資源と生態系サービスへ大きな影響を及ぼすだろう。それゆえに、現在の各国の公約では不十分であり、未だ埋めるべき大きな溝があるのが現状である。この会議で、世界各国が、現状を把握し、解決すべき策をとることが課題である。
なぜ、世界的気候変動に関する交渉が上手くいっていないのか?
太田:多くの場合、各国間で達成するのが困難な合意設定をするのに加え、交渉を繰り返すことで底上げをしようと試みている側面もある。COP21の開催以前に、各国がそれぞれの公約を定めているのだが、私たちが必要だと考える削減量に達するためには、十分とは言えない。もっと意欲的な排出量規制への合意に至ることが必要である。
海の問題はこの交渉の中で適切に議論されているのか?
チュン:歴史上、海に関する討論はあまりされていない。近年、NGO団体や科学者、海の利害関係者が要請したことによって、気候変動による海への影響を議論する重要性がより明確になってきた。漁業、海洋生物、炭素吸収量、文化的影響のような、海からの需要や生態系サービスを受けている我々は、もしも目標を達成できなかった場合、大きな代償を払うこととなるだろう。
気候変動における海への影響について、一般の人にあまり知られていないことに関してどう思うか?
チュン:すでに1970年代から、世界の海は、二酸化炭素排出によって引き起こされた付加熱の93%を吸収するという非常に大きな役割を果たしてきた。さらに1750年以降、海は我々や(我々の祖先)の人間活動による二酸化炭素排出量の28%を取り込んできている。しかしながら、これは大きな代償を払うこととなっている。海が熱や二酸化炭素を吸収することで、さらなる二酸化炭素排出量を軽減させる能力が低下してしまっている。また、海の酸性化、温暖化、脱酸性は、海洋生物や海洋生態系に影響する。海なくして、地球に住むことは不可能なのだ。
太田:私たちの地球環境や地球のシステムは、すべて海に支えられている。海の近くに住む人々は、海面上昇によりすでに移動を強いられている。しかし、多くの人々にとって、海はとても遠い存在であり、目下の関心事ではない。人々は、サンゴ礁が消滅するだろうことも、海がわずかに変わるだろうことも想像しているだろう。だが、それは小さな変化であって、元に戻すために海の回復力や適応する自然の力に頼ることが出来ると考えている。しかし、気候変動によってどうしても後戻りできない海の変化があるのだ。もしあなたの子供に愛おしい子供が生まれ、その子供たちがサンゴ礁や美しい海を一度も見られなかったとしたら、それは今を生きる私たちが奪い取ったことに他ならない。私たちは、世代間での環境的不公平を引き起こすべきでない。
開発途上国と先進国の状況はどのように異なるか?
チュン:気候変動による影響を、陸と海により深刻に受けている海洋地域は、開発途上国にある。例えば、熱帯インド太平洋地域では、多くの開発途上国が漁業資源に大きく頼っているのだが、気候変動による漁獲量の大幅な減少が予測されている。
太田:この海の問題は、完全に全体論である。なぜなら、人的側面と海の環境機能の両方を同時に含んでいるからだ。今回のCOPで、我々は、気候変動が及ぼす人間社会への影響を理解する。私たちの社会のほぼ全ての分野に悪影響が及ぼされるだろう。だからこそ、公平性と社会的公正を必要とする重要な討論でもあるのだ。
脆弱な人たちほど気候変動の影響を受けやすい。開発途上国は資源が乏しいため、適応がさらに困難なのだ。漁業に依るところが大きい国々は往々にして大国ではなく、気候変動による影響を最も受ける国である。私たちは、脆弱な人々をさらに弱い立場に追いやるのではなく、この苦労を分かち合わなければならない。南北、開発途上国と先進国という区分をとっても、いろんな問題が出て来るだろう。社会の中でさえ、性別、先住民、世代間などの問題がある。私たちの子供たちは、今回の議論の結果に左右されながら生活しなければならないだろう。また、我々は、自らの利益を超えて考えることが出来るのだということを子供たちに見せる必要がある。
これらの交渉で、二酸化炭素排出量を十分なレベルまで引き下げることが出来なかったら、他に何が出来るのか?
チュン:COPは本当に重要であり、さらには会議の後にやるべき重要なことがたくさんある。我々は、各国が定めた公約についての経過観察をしなければならない。国が制定した以上に意欲的に排出量削減を定めている州、市、民間企業に見られるボトムアップによる変化がある。グリーンテクノロジーや個人レベルでの排出量削減による、より大胆な変化も起こっている。こういったことが他の組織や市に圧力をかける環境を作り出すことにつながる。そして、国際交渉の場でまとまらないであろう国レベルの溝を埋めることが出来るのだ。
For further information or interview requests, please contact:
Lindsay Lafreniere
Communications Officer, Nereus Program
Institute for the Oceans and Fisheries
The University of British Columbia
[email protected]