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我々は、気候変動に適応しようとしているのか、それともただ身を委ねようとしているのか?

by Andrés M. Cisneros-Montemayor

自然、環境、保護についての指標となる本、A Sand County Almanacの中から、環境の変化に関する逸話を紹介しよう。

「私は、ガスという名の鳥猟犬を飼っていた。ガスはキジを見つけられないと、カオグロクイナ・レールやマキバドリを捕まえようと躍起になった。この不本意な代替物に対する情熱は、本物を見つけられなかった失敗を隠し、ガスの内面的な欲求不満を和らげた。」 – Aldo Leopold (1949)

メキシコのカリフォルニア湾では、沿岸漁業は ほぼ消滅している。資源の枯渇、もしくはあまりにも多くの漁師の間で資源を分け合ったために、どの漁業一つをとってもその価値は消えてしまった。幾つかの地域では、くらげの増加(まだ原因は解明されてはいないのだが、他魚種の乱獲による可能性があげられる)が地方経済の利益となっている。漁師や加工業者は、クラゲ漁業からくる利益を巡って、それぞれが強い主張を繰り返すばかりだ。これは適応なのだろうか。

Is an increase in jellyfish an adaptation to climate change? Image: "Two Jellyfish" by Rex Boggs, CC BY-ND 2.0.

クラゲの増加は、気候変動への適応の一つなのか。Image: “Two Jellyfish” by Rex Boggs, CC BY-ND 2.0.

カナダのブリティッシュコロンビア州の沿岸沿いでは、何世紀にも渡って先住民の人々によって漁を営まれてきたサケは、その後は産業的に集団操業によって捕られきたため、サケ資源は河川流域ごとに全般的に落ち込んでいる。そして今、歴史的に最も生産性の高い水域のサケ資源とそれを頼りにする漁業は、研究所で人工的に孵化させたたくさんの放流稚魚によって補強されている状態である。これは適応なのだろうか。

南太平洋の小さな島国ツバルでは、海面上昇と頻繁に起こる嵐(どちらも気候変動と関係している)により洪水が頻発し、海岸線は侵食され、食糧生産は危機に瀕している。多くの人々が近隣の国々へ移住することを決断し、島にある建物は10フィート(3メートル)の高床式に建てられている。これは適応なのか、それとも全く別ものなのか。

気候変動によって起こりうる影響を完全に避けることは不可能であり、緩和や適応が、政策の選択肢の核に据え置かれている。おそらく近い将来、緩和期間は終わるだろうが、そうであっても、長期的には、一番深刻な (映画マッドマックスのような暗黒の近未来を想像して欲しい)予期される影響を回避するために非常に重要である。二酸化炭素ガスの排出や森林伐採のような気候変動に関わる重要要素を削減するための国際協定は継続的に見直され、同時に、一般市民が環境問題やその影響を認識し、政治家もこの問題に携わって行くだろう。短期的に見てより重要なことは、個人による生活スタイルが変わり、気候変動の影響が緩和され、対応のための厳格な政策実施もやりやすくなるかもしれない。たとえば、防波堤は、地域的な波や比較的小さな海面上昇には対応できるし、またグリーン技術を備えた発電設備を活用すれば、家での省エネルギー対策が簡単になり、光熱費をかなり減らせる可能性がある。この二次的な適応戦略はそれ自体、適応とも言えるだろう。

しかしながら、適応に関してその特徴として言えるのは、定義の詳細が頻繁に見落とされがちであるということだ。 EU委員会によると、「適応は、気候変動の逆効果を予期しており、またそれによる被害を防いだり、最小にするために適切な対応をとること、または起こりうる機会を利用することを意味している。巧みに計画された適応行動を早めにとることで、費用を節約し、生命を救う事ができると示されている。」

この適応を見分ける概念は、予期すること、計画すること、早期、である。この文章の最初に紹介した3つの漁業適応/対応の事例は、ある程度ではあるが、計画をする事、予想する事、そしておそらく早めの行動を行うという適応の概念を反映している。しかし、危機が起こる前から、これらの事例が、予期とともに計画され、早期に実施された【適応】であったとは言いがたい。むしろ、適応の例として討論されてきた世界中の多くの例は、生きるためのやむを得ない策として、簡単で新しい措置を取らなければならなかったのであり、新しい環境に適応することを諦めている事例である

下の図表に見られるように、この適応の定義とは、危機が起こる前に行動するということだ。予期、計画、早期実行は、危機を完全に避けるためには十分でないかもしれないが、確かに影響を緩和することができる。それに反して、適応の必要を正しく認識しなかった事からくる「諦め」は、実際にはその後に起こりうるより悪い影響への適応を強いられたり、もしくは意にそぐわない抜本的な適応を迫られる結果を導くかもしれない。

Adaptation vs. Resignation to Climate Change Impacts

気候変動による影響への適応と諦め

世界の変化は、私たちが知り、常に頼っている周知の事実を揺れ動かしていくだろう。経済という面だけでなくより深い個人レベルで、この再編は起こりつつある。今、変化を起こすことを選択することは、自分の中の欲求不満を解消するだけでなく、本物にしがみつく機会を生むかもしれない。たとえその選択から生まれる違いは、ごくわずかだったとしても。


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アンドレアス・シスネロス−モンテメイヤー
アンドレアスは、漁業管理と生態系サービスを専門とする資源経済学者。現在は、ネレウスフェローとして先住民漁業に焦点をあてた研究を行っている。

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