ネレウス太田です。
漁業と食糧危機の問題に関して、何が問題なのかという問いに簡略な答えがよく見られます。人口増加や資源枯渇そして気候変動はすべてその問題の一部であり、これらが複雑に絡み合うことで、問題は表象することがわかってきました。特に、貧困や環境危機そして巨大資本の課題を考えたとき、問題は食糧危機ではなく、食糧の主権(Food Sovereignty) の問題となります。経済的に、そして政治的に脆弱な立場にいるがため、生産する人たちが 食べたい物を食べることができない、 そんな状況が世界で(そして日本でも)起きていることを私たちは認識すべきかもしれません。アフリカで最も貧しい国の若手研究者が私たちの先住民漁業研究をサポートしてくれています。今回は、彼女がアムステルダムの会議での発表に際して会場での質問等についてブログを書いてくれました。今回は、マダガスカルについて十分に語ってもらっていませんが、今後は、現場のより深刻な現実について私たちに教えてくれると思います。
まずはご一読ください。
マダガスカルの先住民漁業ーMARE会議に出席して
By Vatosoa Rakotondrazafy, Madagascar
小規模漁業の分野に3日間どっぷりと浸り、世界中の漁業専門家との交流、そしてブリティッシュ・コロンビア大学からの友人との久しぶりの再会を果たし、新しい友人もできた。6月24日から26日にかけてアムステルダムで開催された Centre for Maritime Research (MARE) conference 2015に出席した私は、これらの機会を全て得た。
アムステルダムへ向けて出発する週、私はストレスでいっぱいだった。というのも、エアマダガスカルの人事部が、アンタナナリボ空港でストライキを起こしており、私の搭乗予定便を含んだ国際線に遅延の可能性があったのだ。しかし、6月20日午前3時、なんとかケニアエアウェイズに乗ることができ、初めての訪問の地アムステルダムに向けて出発、同日無事に到着した。
MARE会議は、オラン・ヤング教授の基調講演で始まった。それぞれのパネルは7つのセッションに別れ、それが同時に行われていた。私はどのセッションを選ぶかを迷ったが、私の研究と関連している2、3のセッションを見つけた。
この会議は盛況のうちに終了したとは思うが、漁業の抱えている重要な問題に対処するためには、学説に注目するよりもむしろ現場で実際に起きていることをより強調すべきだったと私は思う。研究発表後に参加者が投げかけた質問からこのようなギャップを感じた。一方で、ケーススタディを発表しているセッションもあった。スリランカと南アフリカでのボトムアップ型ガバナンスのケースなどは私の研究に非常に役立つものだった。資源をいかに利用するか、その管理をどう細分化するかという問題において、これらの国の漁師たちが何に苦労しているのかを明瞭に理解できた。また、漁業に携わる人たちの組織を介して見えてくる持続可能な漁業についてのセッションは、NGOのネットワークと私自身がMIHARIを通して調整している沿岸コミュニティーを比較するためにも、本当に参考になった。
先住民海洋漁業に関する私たちのセッションは、6月25日の午後に開かれた。同時に7つのセッションが別々の部屋で開かれているにも関わらず、私たちのプレゼンテーションを聞くために集まった出席者たちで部屋はいっぱいになった。私の同僚アンドレアスによる、沿岸先住民グループにおける海洋漁業要件のグローバルな予想に関するセッションから始まった。ミゲールが、ニカラグアやボリビアでの先住民の土地や水産資源に関する発表でそれに続いた。そして、マダガスカルでの先住民漁業問題と地域主導型管理海域(LMMA) に関する私のプレゼンテーションで締めた。マダガスカルでの先住民海洋漁業の定義はまだ不明瞭な部分もあるため、少し緊張した。マダガスカルの限嗣相続(相続方法を限定する制度)における先住民漁業に関するプレゼンテーションを行ったマダガスカル人は私が初めてであろう。私は参加者のフィードバックにとても驚いた。発表の後、10個もの質問を受けたのだ。
パネルディスカッション詳細:
「沿岸先住民を取り巻く世界の漁業問題」
アンドレアス・シスネロスモンテメイヤー(ブイティッシュ・コロンビア大学)、太田義孝(ブリティッシュ・コロンビア大学)、ミゲール・ゴンザレス(ヨーク大学、ファトゥーサ・レンコンドラザフィ(マダガスカル地域管理海洋ネットワーク)
プレゼンテーション後のディスカッション。以下、質疑応答。
誰が先住民なのか。彼らの地位は何か。
アンドレアス:「先住民」の定義はたくさんある。学問の観点から、または政府、政府間機関の観点から「先住民」とは誰を指すのかに関しても様々な定義がある。ここでは、私たちは再定義をしようとしてはしているわけではなく、1983年に国連 から出されたMartinez-Coboレポートを採用している。そこにはとても包括的に、認識されているグループ、認識されていないグループ、小島嶼開発途上国で構成された実用的な定義が示されている。私たちが集めたグローバルデータの入手先は、身近であり、もっとも一般的なのは民族誌、政府のレポート、個人的に聞き取りを行った内容からである。
マダガスカルに住む先住民たちにとってマーケットへのアクセスや漁業以外で生計を立てる手段に関しての問題は何か。
ファトゥーサ:マダガスカルのほとんどの先住民コミュニティーは、交通手段のない孤立した地域にある。彼らが獲った魚を売る機会やマーケットへのアクセス方法は限られている。それゆえ、彼らの獲った魚を収集する仲介人に頼らざるを得ないのだが、とても安い値段で仲介人に引き取られている。コミュニティーが遠隔地にあるというのも、彼らの活動や機会を制限し、漁業のみに集中してしまうため、生計を立てる他の手だてを見つけるのは困難である。
先住民の土地や海を搾取したり、利用したりする非先住民の商業的な漁師の具体的な方法は何か。
太田:これは色々な場所で非常によく見られる問題である。気候変動の影響により、沿岸資源が減ってきていることがわかっているので、自給漁業は先住民グループが生きていくためにとても重要なのである。
アンドレアス:世界で起こっている事例から、先住民地域に入ってきた非先住民による漁業を規制するのは効率的ではないということも追加しておきたい。これらの地域で公式に明確にされていたり、許可されている例はあまりない。
非先住民貧困層コミュニティーは、どういった権利のもと先住民地と非先住民地の自然資源に立ち入り、利用しているのか。
ミゲール:自然資源への立ち入りに関する、先住民と非先住民間で起こる矛盾した主張の仲裁問題によって、しばしば政府は分裂している。理論的な問題ではなく、非先住民、政府、より広い社会、これらの間に存在する政策の選択肢や力の不均衡を反映するジレンマに苦しめられる問題である。この問題は、国際標準と国内規定両方に関連した政府の対応を調査し取り組まれるべきだ。
LMMA管理(地域主導型管理海域)が実施されている先住民コミュニティーでは、本当にその効果があらわれているのか。
ファトゥーサ:今日、100以上の管理協会があるマダガスカルで、 LMMAの数が増加していることを考慮すると、LMMAが管理するコミュニティーではその効果が見られると考えている。 LMMAは、資源の取り扱い方の手助けをしたり、資源管理のための訓練や能力形成をコミュニティーに提供したりしている。また、沿岸先住民コミュニティーは、この地域に住み、その地を熟知する人々で構成されており、この地域出身の先住民によって、世代から世代へ彼らが糧としている資源を管理するための有用な手段について知識と経験が伝えられてきている。
マダガスカルでは、どのようにしてLMMAが実施されているのか。また、公式に認識されていない中でどのように人々は所有権を感じるのか。
ファトゥーサ:コミュニティーを基盤とした漁業管理は、マダガスカル政府に支持されているが、今のところ、マダガスカルではLMMAを視野に入れた法制度はない。法制度の欠如があるにもかかわらず、コミュニティーは資源管理に意欲を持っており、資源を彼らの所有物として捉えている。しかしながら、私たちは、LMMAガバナンスのための一つの条文のもと、異なる既存体制を統合しようとする過程にある。
どのようにして先住民グループと移住者間の問題を解決することができるのか。
ファトゥーサ:私は先住民コミュニティーと移住者とのより良い話し合いを持つことを解決法として提案する。また、共同管理の促進は一番の関心事である。移住者は、移住先の地域の規則に従うべきである。また、この規則が制定される際は、移住者は協議に加わるべきであり、その情報も広く人々に知らされるべきである。また、新しく入って来た移住者に規則を伝える情報システムも整えるべきだ。例えば村長と一緒に登録手続きをすれば、村長が移住者にこの場所の規則が何かを直接伝えることができる。LMMA管理と協会に属する移住者を統合することで、ベゾ族の文化と生活様式をより尊重するようになるだろう。地域管理ではどうしても問題を処理することが出来ない際は、すべてをカバーする漁業法を施行することを提案する。移住者の中には、先住民グループと比べ非常に裕福で強い力を持っているものもいる。
この討論を通して、この話題にどれだけ人々が興味を持っているのか、先住民漁業に関する情報がいかにまだ十分でないかが分かった。実際のところ、先住民海洋漁業ということが何を意味するのか勘違いされている。人々が次々に私に質問を投げかけてきた事にとても驚いた。数人の友達が、私の発表を聞いていない人たちもが、我々のセッションについて話題にしていたと教えてくれた。
次のステップは、先住民海洋漁業グループをもっと巻き込んでいく事である。また、この会議に参加したことで、私の博士号の研究にマダガスカルの先住民グループに関することを含むきっかけを得た。資源利用や資源管理のための権利が脆弱なマダガスカルには、未だに認知されておらず衰退していっているグループが数えきれないほどあるのだ。
ファトゥーサ・レンコンドラザフィ、MIHARI(マダガスカル地域主導型管理海域ネットワーク)
ヴァトソアは、UN-NF フェローとして2014年7月から12月にブリティッシュ・コロンビア大学に在籍した。太田義孝博士と一緒にマダガスカル漁業ガバナンスについてを研究。現在は、MIHARI(マダガスカル地域主導型管理海域ネットワーク)に勤務している。