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漁師とコミュニティにとっての闘い:社会的責任のある水産物を目指して共に取り組む

持続可能な漁業の最前線に社会的責任を据えるよう活動する人権や漁業専門家グループとの舞台裏

By Victoria Pinheiro, Nereus Program Strategic Communications Lead

A水産物の社会的責任について取り組むために集まった学者とNGO

「ここで問題となっていることの重大さと結果は甚大である。」とJack Kittinger(コンサベーション・インターナショナルシニアディレクター)は話す。Kittingerは、今月初めにワシントン大学に集まった学者とNGO 代表者たちと水産物生産における社会的責任についてのワークショップを開催した。最近まで、水産物の保全に関する議論は、ほとんどが環境的な持続可能性に焦点が当てられていた。資源の枯渇、生物多様性の減少、生息地破壊などの問題が思い浮かぶ。2015年に水産業がもたらす残酷な労働環境や虐待、また奴隷の実態を明らかにした ニュースが世界に発信されると同時に、社会的責任に関する議論が前線でなされるべきことも明白となった。このワークショップに集まった、志が高く分野横断的な人権と漁業専門家のグループは、それを実現させるために活動している。

このグループが成し遂げようとしていることの規模と複雑さは非常に手強い。しかし、以前行われたことがある。異なる産業が同じような社会的責任イニシアチブを実施しているが(例えば、コーヒーやバナナのフェアトレード)、成功の程度は様々である。主催者は、幅広い視野を確保するために、様々な分野の人々を集めるワークショップの参加者リストを作った。ある参加者は、「助けてください」と書かれたメモが財布のポケットに縫い付けられているのを見つけたことがある小売り客の話をした。Kittingerは、参加者に対し、時を同じくする間にそれぞれの多様な経験を引き出すよう促した。「私たちは、苦しい会話をするためには、時にお互いに苦しむ必要がある。この部屋にある多様な視点が、目的を達成するために本当に必要なのである。」と話した。

このワークショップの目標は、漁業における社会的責任を評価し、改善するための議定書を構築することだった。それは、断固として廃絶すべきこと(人身売買や児童労働など)に始まり、成功事例(漁業のリーダーになる女性への権限付与)など広範囲に及ぶ慣行の指標を明確に定義するために必要である。これは、漁業を社会的無責任な慣行のリスクレベルが高、中、低のいずれかを特定するシステムを構築するために使用されるだろう。このツールは、人権や労働権、資源へのアクセス、平等、公平さ、生計と食料安全保障などの重要な問題をカバーしている。また、学術機関、業界リーダー、非営利団体の連合体によって開発され、水産物ビジネスからの約20以上の約束を取り付けている。水産物の社会的責任を共に定義することによって、彼らはそれを達成するために提携して努力する方向に取り組んでいる。「これはブランディングや罪悪感のない買い物に関することではない。持続可能な漁業について、そこで働く人々の権利や幸福を含めてどのように私たちが考えるかについての基準を上げることなのである。」こう語るのはネレウスポリシーディレクターである太田義孝だ。

同グループは、すでに世界中で進行中の漁業改善プロジェクトに、この議定書を統合していくことを目指している。漁業改善プロジェクトや FIPsは、現在、環境的持続可能性に向けて、漁業の慣行を改善するために、漁業者、管理者、研究者、およびNGOを一つにまとめている。このワークショップに集まった人々は、その目標に社会的責任を加えることが必要であるとした。これは、口にするのは簡単である。「FIPモデルは本当に前途有望である。人間の権利と環境を同時に守るための絶好の機会があるが、これらのイニシアチブは、労働者を中心とし、労働者主導でなければならない。労働者たちは、そのプロセスに関わる必要がある。そして民間セクターの参加者は、労働力に責任を持つ必要がある。」とAndy Shen(国際労働権フォーラム)は話す。

参加者たちは、このワークショップにおいて議定書の草案の詳細を自ら作り上げていった。微調整し、改善し、走り書きをしたり、新しい節を加えたり、細心の注意を払ってそれぞれのセクションを箇条書きにして推敲した。

「ドラッグの強制使用についてはどうだろうか。タイでの漁業では日常となっているが、ここには書かれていない。」と、ある参加者が話すと、

「信じられない」との声があがった。

「どんなドラッグ?」Kittingerが眉間にしわを寄せながら割って入った。

「メタンフェタミン。労働者たちを働かせ続けるために使うんだ。」誰もが一瞬息を飲んだ。そして、ドラッグの強制使用セクションを加えるためノートに書き留めた。Kittingerはため息をついた。

「わかった。さて話を先に進めよう。」

「次は児童労働について。どうしても話しあわなければ。」とAshley Apel(フェアトレードUSA)が厳しい表情で話す。

グループの議論は、就労違反に留まらなかった。奴隷労働のような衝撃的な議題は、メディアの注目を浴びる一方で、目立たないように、しかも広範で行われる組織的不正行為があり、それらは見過ごされがちである。「食糧安全保障、生活保障、男女平等など、これらは蔓延しているが、身を潜め、話されない。」とElena Finkbeiner(コンサベーション・インターナショナル)は話した。彼女は、これらの問題が、持続不可能な漁業の慣行を真っ先に牽引するような絶望につながる可能性を示唆した。「それを知って、人々がどうにか切り抜け、家族を支えるのに足る食料と収入を得る前に、環境的持続可能性について話すことなんてできない。考えてもらうことなんてできるわけがない。これらの問題は完全に見過ごされていて、漁業管理を弱体化させる要因となり得る。」

議論及び議定書の編集は2日間に渡って行われた。ワークショップが終わる頃には、社会的責任のための議定書の草案のコピーは赤線でいっぱいになり、ノートは覚書で埋まった。大きく前進した。それ以来、Finkbeinerは、編集と提案を統合するために念入りに取り組んできた。彼女は今年9月にバージョン1.0を公開する予定であり、さらに2回の改訂と所感を予定している。次の段階では、漁業代表者からの重要な指針を組み込むことも予定している。「私たちは長い間この問題について話しあってきた。ただその原則の段階で動けなくなっている。今週私たちが行った作業は、これらの原則を具体的な実践に変えるのに役立つだろう。うまくいけば海を改善するために役立てられるだろう。」

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