2016年は、ネレウスプログラムにとって実りある年となった。ネレウスプログラムは、海と漁業に関する素晴らしい研究と話題を提示することができた。ここでは、今年私たちのウェブサイトで最も人気のあった上位10の記事を紹介する。
1.今年のエルニーニョは海と漁業にどう影響するのか?
2015年に投稿された記事ではあるが、2016年も引き続き最も人気の話題となっている。エルニーニョ現象がどのように形成され、どのくらいの期間持続するか、どのくらいの頻度で起きるのか、海洋生態系、漁業、魚種に対するこれらの現象の影響について概説している。
「バンクーバー、北カリフォルニア、オレゴン州、ワシントン州の海岸沖の地域では、マグロ、カジキマグロ、ワフー、マヒマヒのような熱帯種は通常より大量に漁獲されるようになる時がくる。良いことのように思われるかもしれないが、これらの沿岸付近に温水種の存在することは、ここに生存している冷水種が好む条件ではなくなっていることを意味するのだ。」と Ryan Rykaczewski(サウスカロライナ大学助教授/ネレウグプログラム同窓生)は話す。
2.世界の水産補助金(350億ドル)について
OceanCanada、 Sea Around Us、ネレウスプログラムの研究者たちは、世界の水産業は年間350億ドルの政府からの補助金により支えられており、この補助金の大部分(年間200億ドル)が、乱獲等に繋がる漁獲能力拡大の助長に充てられている可能性があると指摘している。Wilf Swartz(ネレウスリサーチ同窓生)へのインタビューで、漁業補助金とは何なのか、そして魚資源に対する補助金のメリットとマイナスの影響は何かの核心を突く。
3.英国のEU離脱(Brexit)は、英国の漁業にどんな影響をもたらすか?政策、科学そして社会が直面する不確実性について
英国が欧州連合(EU)を離れるための国民投票であるBrexitの結果は、多くの人に衝撃を与えた。多くの影響が未だ不明確であり、この投稿では、漁業や海が受ける可能性がある影響について、政策、科学、社会の見解から検討している。政策の観点から、漁業管理、排他的経済水域(EEZ)、海洋保全義務、廃棄禁止、スコットランドの独立性の観点から不確実性が生じる。Brexit により、 科学については、EU全体でなされている研究資金、データ共有、人事をどのように実施していくのか不確実になっている。市場のアクセス、水産物の価格、漁師の生計を含め、社会的影響も起こるだろう。
4. 急進的な未来の海のシナリオを推測するためのSFプロトタイピング
海は、急速に変化している。私たち次第で今後の未来の海が変わる、ちょうどその時に出くわしているのだ。 Andrew Merrie(ストックホルムレジリアンスセンター/ネレウス同窓生)が、SFプロトタイピングと呼ばれる革新的方法を利用して、世界の海と漁業に関する4つの急進的未来を考案している。2つのシナリオは、より理想郷的未来を、残り2つはより暗黒郷的未来を描写している。それらは、異なる方法で、物語様式でスペキュレイティプ(思弁的)・フィクションとして書かれている。例えば、旅行雑誌記事、死亡記事、TEDのようなトークを文字におこしたもの、過去記事を再掲載したシリーズものなどである。この投稿では、4つの画像全てを表示しており、もともとははWired上で発表されたものである。
5. TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は水産物の貿易にどんな影響を与えるのか?
2015年10月、話し合いや意見の相違は続いているが、TPPが大筋合意に至った。この投稿では、水産物の価格は上昇するのか低下するのか、どのように持続可能な漁業管理に役立つのか、重要な海洋種の保全を促進し、違法漁業と戦うのかを含め、協定国12カ国間でTPP が水産貿易にどのように影響する可能性があるかを説明している。
6. Our jelly-like relatives:サルパ類に関する誤認識
「サルパ類は、樽型ゼラチン質動物プランクトンであり、クラゲのように見えるが、クラゲのような触手はもたない。幼生は、人間の背骨によく似た薄い脊索を持ち、我々に一番身近な無脊椎動物の親類と言われる。サルパは脊椎動物の一部である被嚢類の動物であり、人間と同じだ、しかしクラゲは刺胞動物門であり、サンゴと同じである。サルパとクラゲは、8億年前に分岐した異なる祖先を持つ。この2つは、非常に似ているが、全く異なる進化を遂げて来た種である。」とHenschke(プリンストン大学)は説明する。
7. 食卓に並ぶクラゲ〜クラゲ漁はクラゲ大量発生への解決策となるか〜
Natasha Henchkeは、クラゲの繁殖の発生の増加について、そして私たちがクラゲを食するべきかどうかを検証しているクラゲについてこのブログ記事でこのように記述している。
「クラゲの漁獲は、短期間で見ると繁殖する生物量の管理の解決策である。クラゲは、そのライフサイクルが、水底に生息したり漂流する時期を含んでいるので、クラゲ漁はりんごの収穫と類似しているところがある。つまり、一本のりんごの木から全てのりんごをとっても、翌年にはまたりんごを実らせる。同様に、ある場所ですべてのクラゲを取り除くことができたとしても、底生生物のポリプの群生は健全で毎年クラゲの幼生を生み出し続けるのだ。」と記述している。
8. コガシラネズミイルカが絶滅危惧種になったのは漁業の問題だけではなく、社会的、生態学的問題でもある
コガシラネズミイルカは、1996年には600頭が確認されているが、2016年には60頭に激減しており、異常な速さで絶滅の危機に直面している。最大でも1.5メートルにしかならない世界最小の海洋哺乳類だ。黒い目や、死後でさえも笑ったように見える丸い口を持ち、十分に可愛らしい要素を持ち合わせている。世界で最も絶滅に近い海洋哺乳類についてはそれほど知られておらず、1958年までは科学者に記述されることもなかった。コガシラネズミイルカが生息する海域に出航する漁師たちでさえ滅多にその姿を見られない。
絶滅の危機に瀕しているネズミイルカの存在すら知られていないということがなぜ起こるのだろうか。コガシラネズミイルカの生息地で行われている漁業が責められている。刺し網に引っかかり、溺れたことによるものだと考えられるからだ。しかし、Andrés Cisneros-Montemayor (ネレウスプログラムマネージャー/リサーチアソシエイト)は、より大きな社会的、また生態系的問題に影響を及ぼしていると考えている。
9. 南シナ海の不安定さ:生態系における課題と国際政治に関わる複雑な現状
非常に重要な漁業と海洋サービスの地域である南シナ海の領有権をめぐる紛争は、2016年も引き続き起こった。7月、ハーグ国際法廷は、中国が主張するこれらの水域での歴史上の権利主張を却下し、その上でフィリピンに有利な判決を下したさらに、中国が許可なしにフィリピンの管轄海域内で漁業も行う一方で、特定の地域で非合法的に伝統的な漁業権の行使を妨げていたと判断した。
この投稿では、南シナ海の価値、そしてなぜこんなに多くの国々が南シナ海を巡り争っているのかを説明した。南シナ海の生態系や漁業の現在の状態、管理問題についても考察している。
10. 海をイラスト化する:海洋生態系の複雑さを描くための過程
過去数年間に渡り、アーティストJenn Paul Glaserは、複雑な海洋システムを描いたユニークなイラストを制作している。ここでは、これらの素晴らしい作品を作るためにたどった過程や使用した道具について説明している。
2017年も引き続きネレウスプログラムをよろしくお願いいたします。
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