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持続可能な水産養殖のための重要な5つの側面とは:養殖は世界の食料安全保障の一助となるか?特にアフリカではどうか?

by Muhammed Oyinlola, Nereus Fellow, UBC

水生種の養殖が、世界の食糧安全保障の課題を解決する重要な側面を担い始めている。漁業による水産物の供給は減ってきている。私たちが漁業による圧迫を減らすことこそが、魚資源を増やすことにつながる。しかし依然として、政府は、さらに魚が獲れるように水産業に助成金を支給し続けている。したがって、私たちの新たな方策として期待されるのが養殖である。我々は、動物性タンパク質の生産法を狩猟から畜産に変化させた。同様に、海では漁から養殖に変更する必要があるのではないか?これが私の議論である。養殖は、世界の人口増加に対応すべく、水産物供給をさらに促すための最良の選択肢なのだろうか。 養殖は、 8.8%ほどの平均増加率で、世界で最も成長している農漁業食品分野であることが明らかである。しかし、生態系への強い依存、設備からの環境への影響、あいまいな「養殖の持続可能性」の定義などから、養殖産業には悪いイメージがつきまとっている。

養殖が持続可能的に行われてきているのか?という質問をされたとしたら、私の答えは「行われている」である。しかし、実際のところ、養殖に関して何が持続可能なのか人々はわかっていないと思う。私は、多くの人が、「天然の資源を獲る」漁業というものを養殖から切り離せないことが問題であると考えている。水生動物を養殖することは、自然界から獲ることとはかなり異なる。まず第一に、養殖は獲るのではなく魚を育てるビジネスである。養殖業者は、何かが得られる(お金が儲かる)という希望を持って世話をする。つまり、ビジネスはビジネスである。世界中の人々に魚を供給するという考えを持ち、商業目的ではない養殖場を始めたとしても、養殖も他のビジネスように、営利を目的としているのだ。

ビジネスとして持続可能な養殖を実践できているだろうか。最良な養殖場をランク付ける各々の認証機関から、これらの質問について明確な答えを見つけるのは困難だろう。養殖のような産業で、経済、環境、社会の3本柱にバランスをとる持続可能性は、特に環境や経済の分野ではその合格点を得るのはかなり難しい挑戦となり、また「経済的に」実行可能性にも問題があるとも言われている。ビジネスというものは、社会的責任を持って、場合によっては利益還元のための市場として消費者のニーズに応える。養殖業も例に漏れず同じことが言える。

Image: "Aquaculture" by Michael Chu, CC BY-NC-ND 2.0.

養殖による魚は世界食料安全保障に役立つか。 Image: “Aquaculture” by Michael Chu, CC BY-NC-ND 2.0.

1. 魚の給餌量に対する魚の生産量
養殖における持続可能性は、5つの主要ポイントに集約でき、これらは間違いなく、持続可能な養殖場を認証するための鍵となるであろう。初めに、持続可能な養殖は、生産量以上の天然魚(還元物:肥料に使われる魚粉や魚油)を使用すべきでない。魚の給餌量に対する魚の生産量が1以下であるということだ。 70%以上の海水魚と甲殻類は1以上の値を使用する(例えば、サーモン2.2、マス1.9、海老1.2)、およそ70%の淡水魚、養殖された種は1以下である(ティラピア 0.3、ナマズ0.4、サバヒー0.1)。養殖生産データは、現在、高い栄養レベルの水産生物の培養が着実に増加していることを示している。Daniel Paulyが、食物網の farming up(養殖魚が食物網の上位の魚へと発展する現象)と呼ぶ現象だ。これは結果として天然資源への依存が増すことを意味し、従って持続可能性の問題が出てくる。サーモンのような養殖された高い食物綱レベルの魚は、特に先進国で需要が高い。私たちが魚粉や魚油を得るための漁業を減らすために、その代換を見つけるまで、高い栄養レベルの魚には持続可能性の問題があるだろう。

2. 天然資源の保護
第二に、持続可能な養殖施設となるためには、培養種が逃げたり、疾患または寄生虫の伝染により野生の魚種資源に実質的なリスクをもたらさないよう万全を期すべきである。しかし、これらの逃魚や伝染は、その環境と直接接触を持つ外洋を利用した養殖システムではよくあることである。カナダでの逃魚記録では、2012年には平均21kgのキングサーモンおよそ2500匹、2013年にはギンザケ300匹、2014年には400gのニジマスが13,000匹、と報告されている。また、世界中の開放型養殖システムで病気発生の報告例が多数あり、そのため持続可能性の問題が挙げられている。

3. 有機廃棄物の排出の問題
持続可能性の第三の問題は、周囲の生態系に影響を与えないように、有機廃棄物を取り扱い、排出する設備にある。開放型養殖システムによる最良の方法は何だろうか。廃棄物は直接水中に流れるので、人には何も見えない。しかし、これらのシステムでも認証機関から1つないしは2つの認証を受けている。実際には、その他にも再循環システム、多栄養段階統合養殖や認証なしのアクアポニクスといった廃棄物管理に有効なシステムがある。

Image: "Farming fish. Photo by Stevie Mann, 2007" by WorldFish, CC BY-NC-ND 2.0.

小規模養殖業の製品をアフリカで市場に出すことができるか。 Image: “Farming fish. Photo by Stevie Mann, 2007″ by WorldFish, CC BY-NC-ND 2.0.

4.労働者と地域社会のための社会的影響
第四に、持続可能な水産養殖は、他のビジネス同様に、労働者と受け入れ側コミュニティーへの社会的影響の面で最良の実施方法を用いなければならない。アジアの養殖産業では、奴隷労働に関する様々な報告がなされている。事実、オンラインニュースマガジンでは、ベトナムのエビ養殖は、中国よりも安い人件費を理由に、中国の大きな脅威となっていることが報告されている。これは明らかに、増大する人口のために、安く飼育された製品を生産するために、労働者を搾取している会社が存在することを表している。これは持続可能であろうか。

5.経済的持続可能性
最後に、持続可能な養殖は、経済的にも持続可能でなければならない。一般的にビジネスは利益を生み出すためにあるように、利益が期待できなければ商売を始める者はいない。しかし、特に競争の激しい産業では、最大限の利益をあげ、産出増加とコスト削減を目指すことが飼育や養殖事業のジレンマとなっている。したがって、 単一魚種に集中した養殖ビジネスモデル がこの課題を解決し、人口増加による需要を満たすための最良のアイデアとなっている。これは、低集約生産モデルを含む他のシステム、経済的にあまり魅力的でないシステムを否定する主な理由として挙げられてる。そのような数多くのシステムは開発途上国で見られる。農家は、マルチ栄養養殖(IMTA)またはアクアポニックスを統合した養魚池で植物や動物を組み込むことができる。あまり設備を使用せず、化学物質や抗生物質無しで生産するこのシステムでは、廃棄物の排出量が少なく、環境に有害な影響を与えない。しかし、もちろん、彼らは産出量が少なく、経済的持続可能性と戦わなければならない。これは、小規模農家は、はるかに低いコストで非常に高い生産性を持ち、生産持続不可能な方法ではあるが、認証ロゴを持つ大規模農家と競争しなければならないという現状にあるからである。

Image: "Cage aquaculture in Ghana. Photo by Curtis Lind, 2009" by WorldFish, CC BY-NC-ND 2.0.

生態系への有機廃棄物の排出は、調査の必要がある水産養殖の一面である。 Image: “Cage aquaculture in Ghana. Photo by Curtis Lind, 2009” by WorldFish, CC BY-NC-ND 2.0.

アフリカでの持続可能な水産養殖は可能か?

これは複雑な取り組みであるが、最近、環境に優しい小規模の水産養殖ユニットによる水産物生産のアイデアが出現してきた。投資収益を生み出すだけでなく、環境にプラスとなる持続可能な事例に投資することで、小規模の水産養殖を奨励する。それゆえ、収益をあまり期待せず、持続可能性を志す投資家によって資金が提供されている。それは経済の持続可能性以前に環境の持続可能性が優先されるわけである。しかし、魚を生産するためのコストは依然として競争力がないので、規模が拡大し、コストを削減でき、そこに価格が続かない限り、持続可能な小規模水産養殖業を市場に出すのは難しいのが、主な課題である。2014年に、セネガルの教授が、ドイツで多数の聴衆を前にセネガルの漁業と水産業の見解について発表した。彼は、水産養殖業は発展してきていて、持続可能なものだと説明したが、マーケティングが大きな問題だと話した。例えば、養殖魚はアフリカでは高価なのものなので、サハラ以南のアフリカでは、養殖品は “big man”(お金持ち)用となる。ティラピアの価格は、アメリカでは$2.20/kgであるが、ガーナで$3〜5 USD/kgである。$2 USDまでコストを削減するために、小規模の養殖から規模を拡大する必要がある。またガーナには$2 USDの魚を買う“big man” が非常に少ないので、アメリカ合衆国のような大きな市場への進出を探る必要がでてくる。24%のガーナ人が貧困線以下の生活をしていることを忘れてはならない。同様に、アフリカナマズを輸出したり、多様化することができていないナイジェリアの養殖業では、ティラピアですら個人投資にもかかわらずうまくいっていないのが現状である。

最後に、持続可能な水産養殖について、特にサハラ以南のアフリカにおいて、適切なマーケティング戦略を持たない小規模水産養殖へのこの種の投資は(環境的持続可能性のみへの資金)、2つの新しい課題を生み出している。一つは、不透明な未来の中での水産養殖業への助成金の増加であり、もう一つはより重要なことに、そのさらなる投資増大である。現在まで、サハラ以南のアフリカでの水産養殖業は、大きな病気の発生を経験してきておらず、天然魚や水環境への実質的なリスクが表面化していない。アフリカの水産養殖会社は、未だ優良事例としての認定を受けていない。おそらく、これらの会社は、認定を受けるプロセスのためにお金を払う余裕はない上、単純にアフリカの水産養殖業はこのような肩書きを受けるほど増加していないので、認定査定を申し込んでいないのだろう。問題の真実は、適切なマーケットがない状況での投資増加により、アジアや南アメリカのようにアフリカの水産養殖業は持続不可能となるだろうことである。食料安全保障は、常にサハラ以南のアフリカで問題となっており、世界は食品の安全性を確実なものとはできていない。

私の研究では、気候変動下での水産養殖に焦点をあてており、上記で考察している水産養殖における幾つかの不透明性を取り扱っている。この記事で問いかけたすべてのポイントは、「現在の問題」であり、環境の変化は考慮していない。気候変動は、環境だけでなく、魚生産の社会経済的インプットや漁業と水産養殖業間のバランスに影響を与えるのは明らかである。


Muhammed Oyinlola

モハメド・ オリンロラ, 国際研究水産熱帯生態学
ブリティッシュコロンビア大学
ナイジェリア出身。現在ブルティッシュコロンビア大学で博士号取得を目指す。ネレウスでは、気候変動と海の酸性化が、養殖による水産生産に与える研究に焦点を当てて研究を進めている。

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