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気候変動による漁業燃料費上昇の可能性

By Vicky W.Y. Lam, Nereus Program Fellow at UBC

燃料使用が気候変動に加担しているということは周知の事実だが、気候変動によって漁業における燃料使用量が増加する悪循環も考えられる。海洋温暖化のため、魚の分布が移動しているからである。この燃料使用量の増加と価格上昇により、小規模の零細漁業者は、気候変動下で生活を維持し、家族を養うのが厳しくなるだろう。

燃料費は、漁船の操業費の大部分を占める。漁業総費用に対する燃料費の割合は、その他の変動費の中で2番目に大きい。ヨーロッパでは、2012年には燃料費の割合が総変動費総額の32%にまで及んでいる。アフリカでは、総燃料費の割合いが総水揚げ価格の半分以上の54% である。これは、消費者が海で漁獲された水産物に2ドル費やすごとに、燃費に1ドル拠出しているということだ。そのため、燃料費は漁師の決断に大きな影響を与える要因なのだ。漁での燃料使用量と燃料消費支出は漁業行動と利益に大きく影響する可能性がある。漁師は、燃料費に影響している様々な要因の中で、変動する世界原油価格と気候変動の影響を懸念しており、これらの要因が漁業の実行可能力に影響を及ぼす。

気候変動により漁業分布が移動するため、燃費が増加するかもしれない。 Image: “Floating Chevron” by Michael Chu (CC BY-NC-ND 2.0)

気候変動により、赤道付近の温暖な海における海洋生物の分布範囲が極端に移動するだろう。海洋種の豊富さと分布の変化は、燃料消費に影響を与え、燃料費をも左右する。漁獲目標とする種の分布が変化した場合、漁船は魚を獲るために長距離移動する必要がある。これらの変化により、漁船の燃料費が増加するかもしれない。漁師は、漁場を移動し装置を変更することで変化に適応できるかもしれない。この行動の変化は、さまざまな気候現象の下で歴史的に共通する部分がある。スズキやヒメジのような温水種が豊富になることで北海で新しい漁業機会が生まれたこと、また、ペルーの産業漁業が例として挙げられる。漁獲する種の構成が変化したため、刺網と巾着網から底引き網に漁具を変えることで、1997年から1998年のエルニーニョの間の漁業技術を多様化させた。しかし、異なる漁具の種類の燃料消費および燃料効率は大きく異なる。例えば、底引き網とはえ縄漁(1トン当たり2,000L燃焼)の1トンあたりの燃料消費は、沿岸引き網(1トンあたり100L燃焼)による消費よりかなり高い。それゆえ、漁具を変えることで漁船の燃料費は大きな影響を受け、ほとんどの零細漁業者は、産業補助金よりも燃料補助金が相対的に少ないため、この移行は実現できない可能性がある。

燃料費は漁業者の運営費用の大部分を占める。 Image: “Petrol Station on Sông Hậu near Cái Răng Floating Market, Mekong Delta” by Gavin White (CC BY-NC-ND 2.0).

変動する世界原油価格も、燃料費に大きな影響を及ぼす。原油価格の上昇が漁師に影響を与えていることを示す例が多く見られる。2007年から2008年の世界の燃料価格の急騰により水産物の価格が停滞したため、収入の減少、雇用の減少、乗組員募集の問題など、イギリス漁業は一連の社会経済的影響を受けた。また、近場の漁場で漁をしたり、試験操業を減らすことで原油価格の上昇に適応した。しかし、こういった変更により漁獲量が減少した。2004年、世界的な原油価格の上昇が香港の漁船のディーゼル燃料のコストを20%増加させた。燃料価格が高騰したため、この期間に300隻もの漁船が漁業停止に追い込まれた。

世界的な燃料価格と気候変動の相乗作用により、漁業の存続率は悪影響を受ける。燃料助成金がなければ、利益が出せない漁業者も出る。しかし、燃料助成金は漁業資源にとっては悪影響だと考えられている。政策立案および意思決定の過程では、漁業燃料使用量と燃料費に関する漁業管理の影響はほとんど考えられていない。そういったことを鑑みて、将来の漁業管理や政策計画では、これらの経済的、環境的、社会的目標で足並みを揃えていなければならない。


VICKY LAM, PHD, 漁業経済
UBC

漁業経済学者、ネレウスプログラムとSea Around Usのシニアリサーチフェロー。現在、世界の漁獲量データベースの再構築プロジェクトに携わる。世界規模での商業漁業経済における気候変動の影響に関する研究を行っている。

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