混獲とは、シンプルに言えば、漁業の対象種以外の捕獲の事である。魚をとる網にウミガメがかかる事、またタラを穫るための網にエイがかかる事も同様である。
この問題は、魚資源の利用と生態系保全のバランスが壊れるきっかけであり、漁業者にとっても頭を悩ます問題である。漁網に対象種以外がかかって嬉しい漁業者はいない。
ダニエル・ダンの研究は、生態系の保全と漁業という2つの事項が共に深くつながっている事を理解させてくれる。環境保全と漁業は、決して対峙する物ではなく、漁業により新たな技術や視点を加える事で互いが「win-winの関係」になれる事を彼は主張している。
例えば、混獲の対象となる絶滅危惧種の海での動きを漁師が知る事で、漁師はこれらの種が網にかかるのを避ける事が可能になる。
また、管理者が、より精密な海洋情報(特に、どの海洋生物がどこにいるのか)をリアルタイムで知る事で、漁業は、むやみに閉鎖海域を拡げる事を避け、漁師にも痛手の少ないより効率的な海洋生物保全を行う事が出来ると、彼は主張する。
勿論、情報の共有や生物の動きを知る為にはそれなりのコストがかかるが、「海とそこにいる生物の動きを知る」技術の発展は限りない可能性を私たちに与えてくれる。
以前、「オーシャンズ」という映画で知られた「センサスオブマリーンライフ」に科学的な貢献を果たしたデューク大学海洋空間研究所の理念は、漁師への思いやりとともに彼の中で脈々と育っている。
博士号を終え、以前エージェントとして活躍していた国際政策に改めて身を置くダニエルは、ネレウスにおいても今後より一層、生物多様性と漁業にある溝を埋める重要な役割を担ってくれるだろう。(太田)
科学と政策のつながり:ダイナミックマネージメント(ダニエル・ダン、デューク大学)
科学者はどうしたら政策者側に強い影響を与えられるだろうか。
Daniel Dunn(ダニエル・ダン)は、自身の研究の中でこれについて日々考えている。
Dunnは、Duke University Marine Geospatial Ecology Lab (デューク大学海洋地球空間的生態環境研究室)の博士研究員であり、Nereus Program(ネレウスプログラム)Senior Fellow(シニアフェロー)である。彼が共同執筆した論文「Dynamic Ocean Management: Identifying the Critical Ingredients of Dynamic Approaches to Ocean Resource Management」が、BioScienceに最近掲載されたばかりである。
この論文では、商業活動の空間分布を導くためにリアルタイムのデータを用いるダイナミックオーシャンマネージメント(以下DOM)という、認知度があがりつつある分野について概説している。
「ダイナミックオーシャンマネージメントとは、海洋を調整する動きであるのだが、例えば、海洋学、漁獲量、市場の動向における変化など、陸上での状況によって決定づけられるものである。」とダンは話す。
DOMは、資源や資源利用者、管理する側、マーケット●markets actが時間的、空間的にどのように機能するか、役割を担うかを並べてみることによって、資源利用の効率を上げ、生態系への影響を減らすことを目的としている。現在では、伝統的な「静的」管理手法に取って代って、DOMの「動的」手法が世界中で適用されつつある。この主たる目的には、目標割当量の最大限活用、商業的価値のある種の廃棄削減、希少種捕獲の縮減、が含まれる。
また、海洋パターンは気候変動により変化するため、DOMは解決策のひとつとなりえるであろう。
「気候変動により、時間的、空間的に資源が著しく変化する可能性が出てきている。ダイナミックマネージメントは、伝統的な静的手法に比べ、確実に気候変動による影響を漁業管理に組み込み、統合させることができる」とダンは述べる。
しかしながら、DOMは漁師と水産業双方への対費用効果が高いのだろうか。
この論文の中で、いくつもの成功例が挙げられている。アメリカ東海岸では帆立漁での混獲の減少、東オーストラリアにおいてはミナミマグロの過剰漁業の制限がその一端である。
「これらの手法はすべて他の漁業に利用することが可能である。資源管理や漁師としての立場を漁業管理の手法と合致させることが今後の課題であると考えている。」とダンは話す。
漁師にかかるコスト(費用)は、現在の管理目安に沿わなければならない。
「 これは一人で進められる課題ではない。ダイナミックマネージメントがもたらすことやダイナミクマネージメントを実現するためのコストを代替案のコストと比べなくてはいけない。静的手法の中には、とても荒削りで、且つ漁師や漁業コミュニティーにとって信じられないほど高くつくものもある。」
DOMの研究が続けば、今後の成長と発展の余地が十分にある。ただ、それを実践に移すには、多様な魚種について、また社会的、経済的データ、利害関係者の構造、現地の意見、海洋利用における倫理観などを含めたより複雑な管理を考慮する必要がある。
ダイナミックオーシャンマネージメント研究以外に、Dunn博士は、国連における国際政策にいかに科学が働きかけられるかを知る良い機会を得た。4月6日から10日まで行われたUN Open-Ended Informal Consultative Process on Oceans and the Law of the Sea会議で、彼はOcean Affairs and the Law of the Sea (DOALOS)の専門家と語り合ったのだ。
毎年その会議では、タイムリーな海洋関連の問題を国連代表者達と議論するために専門家集団の参加が依頼される。究極な目的としては、政策者へ情報を提供するために、利害関係者や研究者を含む、通常の参加者よりも幅広い聴衆を国連会議に参加させることがあげられる。今年は、持続可能な開発における3つの次元「環境、社会、経済」の統合を強調したテーマであった。
Dunn博士にとって、どのようにDOALOSが知識の仲介人として科学者と交流するか、ネレウスが将来どのようにDOALOSに情報を提供していけるかが見えてきた。
特にMillennium Development Goalsの点から見れば、この席での主な討議は持続可能に関することであった。
「現在話し合いがなされているポスト2015アジェンダと呼ばれるものがある。そこで新しい目標が提案され、[The UN]は「持続可能な開発目標」を掲げている。そして、ここ何年にも渡って、これらの目標の一つに海洋関連が確実に含まれるよう、多大な努力がなされているのだ。
UNが、Millennium Development Goalsを推進し、元来の目標を超えていく一方で、このような会議が未来の海洋における持続可能性の議論を活性化させるのに有効なのだ。
Dunn博士は自分の研究を続けるにつれ、多分野にまたがるコミュニケーションに価値を見出している。漁業から政策まであらゆる視点をまとめることで、本物の変化を生み出すことができるのである。
「これは本当に利用価値があると思う。もし実践的な科学者になりたいのであれば、科学的プロセスにおける実質的な利害関係者、または政策を構築するためにこれらの情報を利用していく側と上手く意思疎通をはかる機会を持つためにも、きっとさらに重要な意味を持つだろう。」