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ネレウスブログ2:レベッカ・アシュは、「気候変動は季節や魚に影響を及ぼしている」と考える。

ネレウスプログラムの太田です。
冬が年の半分を占めるバンクーバーもここひと月ほどで一気に夏めいてきました(春を飛ばしています)。

先々週にネレウスの年次大会が開催され、30人の若手研究員と教授陣が世界中から参加しました。

誰もがフリーに議論を交わせる場所であることがこの年次大会のモットーであり、分野横断研究の最重要な空間設定だと思っています。

その為、「発言を止めるのは進行役のみ」というルールで会議をすすめました。会議後に,「発言止めてごめんね」とビール片手に挨拶回り、というのは嘘ですが。

社会科学から自然科学まで、各1時間という20近い研究発表を3日でこなして、みんな充実した時間を過ごせた模様です。

さて、今回はプリンストン大学のレベッカアシュ氏をフィーチャーしたブログです。レベッカは、元人類学専攻なのに、高度なモデルと統計分析を行うハイブリッド系の科学者です。

彼女は今、気候変動と海の関係で、漁師から科学者そして政策者までが頻繁に出す質問、「季節との関わりはどうなるのだ」という難問に答えるための研究を行っています。

実践に直結する課題を選んだのは、彼女の(社会と自然科学の)ハイブリッドな問題意識の現れでしょうか?

専門的な論述の少ない、ストレートな文章ですので読んでみてください。


ネレウスブログ2:
レベッカ・アシュは、「気候変動は季節や魚に影響を及ぼしている」と考える

Rebeca Asch (レベッカアッシュ)は、気候変動が海の季節パターンに影響を及ぼしていることはわっているのだが、それが証明しがたいことも承知している。

結局のところ、陸で起きていることの方がわかりやすいのだ。

「温暖化に伴って、春になると例年より早く草木が芽生え、動物や渡り鳥がいつもより早い時期に移動している現象が確認されている。逆に、海を観察するのは非常に困難なため、海の中で起こっている気候変動による季節パターンの変化についてよくわかっていないのが本当のところだ。状況を掴むには限界がある。」とアッシュは言う。

では、どのようにして気候変動が海の季節に影響しているかどうかが分かるのだろうか。

Blog_RAsch

プリンストン大学環境海洋科学のポスドクでありネレウスプログラム研究員であるアッシュは、その答えを見いだせると自信をみせる。

彼女は、自身の研究の中で、[植物プランクトンと魚]、この二つの異なるグループ間において海の季節パターンの変化があるのかどうかを確かめるためにグローバル気候モデルを使った。

今年3月23日にブラジルのサントス市で開かれた「第3回国際シンポジウム−気候変動における世界の海洋への影響」で、彼女の分析による見解を発表した。『Projected mismatches between the phenology of phytoplankton blooms and fish spawning based on the GFDL Earth System Model (ESM2M)』を演題とした彼女の発表は、若手研究者に贈られる賞を受賞した。

アッシュはこの学会参加を通じて、海洋学と漁業のそれぞれの研究がいかに融合できるかを肌で感じることとなった。

「海洋物理学者や気候学者が、漁業管理を研究する者と一同に会する数少ない学会の一つで、とても興味深いグループである。この二つの分野の科学者は基本的に全く異なる領域に従事している」と彼女は言う。

この二つの領域を分野横断させるということは極めて重要な問題なのである。研究を進める上で把握すべき海のあらゆる側面に影響を与えるであろう気候変動となればなおさらである。

アッシュの研究は、基本的に資源量として新たに加わってくる幼魚の数、つまり幼魚の加入量に関することである。どの年にどのくらいの魚をとっていいのかを決定するために、幼魚の加入量は資源の生産性において重要な鍵となっている。

「たくさんの幼魚が加わったとしたら、潜在的な蓄えができた分、多少多く漁をしてもよいだろう。しかし、資源に加わったのが少量の成魚だけだったとしたら、漁獲量は制限されるべきだろう。」とアッシュは話す。

加入量は、すべて稚魚である初期段階によるところが大きい。この時期、稚魚は完全に発達していないため、飢餓に弱いのである。遊泳力も弱く、えさを摂るのもうまくない。

「プランクトン生産がピークに達する時季にあわせ、多くの魚が稚魚を繁殖させ、海の仕組みを利用しようとしている。すると稚魚はプランクトンを食べることができ、生存率は高くなり、幼魚の加入量が増え、よって成魚が増えることになる。」とアッシュは説明する。

しかしながら、気候変動によって、稚魚の生存率を高めるために必要なプランクトンが大発生するピーク時が正確に分からなくなってきている。

この観測により、アッシュの本題が生まれる。
「プランクトン発生の時期がいかに変化し、それにともなって魚の産卵時期がどのようにかわってきているのか?」

そして、彼女は、この二つは相互関係を保ちながら変化してきたのではないか、そうでないとしたら、どの地域が漁場に変化をもたらしそうか、と考えたわけだ。

「魚は、産卵する場所を変えることで気候変動に適応し、プランクトンの繁殖と産卵時期のずれが生じることは少ないということが分かった。」とアッシュは言う。

さて、学会で賞賛された彼女が次に期待したいことは、中心となる利害関係者に議論してもらうことである。

「『自分が扱う魚の種類にいかに影響があるのか、自分たちはどのように捉えるべきなのか』と漁業に従事する人々に考えてもらうきっかけを作りたい。なぜなら、今のところ、ごくわずかな海洋学的データしか漁業管理に踏襲されていないからである。」

では、漁業がこのデータをうまく利用するためにではどうしたらいいのだろうか。アッシュは重要な二つのポイントを強調する。

「一つは、簡単にデータを入手出来るような有用な観測システムの構築である。そして、もう一つは、漁業を管理するために、海洋学と海洋学で浮かび上がった現象がいかに漁業と関係し、影響するのかということをはっきりと認識することが必要である。」

完全に一本化するには時間が掛かるかもしれないのだが、この若手研究者は楽観的に構えている。

「私たちは、漁業管理に生態系アプローチを用いる傾向にある。よりその動きが加速していくのではないか。」アシュの楽観的な態度には今後の漁業管理への期待が潜んでいるのかもしれない。

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