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ネレウスブログ3 気候変動と漁業について

ネレウス太田です。現在イギリス、ケンブリッジです。明日フランスに向かいパリでの科学会議,Our Common Future under Climate Change”に出席します。山のようなプログラムで気候変動と私たちの未来についての科学が共有されます。このブログで今後レポートします。

先週、一年をかけたネレウスレポートのリリースを東京で行いました。多数の記者の方々に取材いただきました。ご関心を持っていただいた皆様に、心より感謝いたします。「気候変動と漁業という複雑なしかし未来の海と沿岸の生活にとっては重要なつながりを現在わかっている科学と共に説明する」という目的は少なくとも達成できたかなと参加者一同喜んでいます。ネレウスを進めていると「最後はどうするの?」という質問を受けますが、必要そして求められていると考えることを一つ一つ行っていくことの積み重ねの中から見えてくるのだと思っています。高い山ですので、登らないと頂上は見えないということでしょうか?

さて、今回は相棒のウィリアムのインタビューを載せています。先住民研究は私の分野ですので取り上げてくれているのは嬉しいです。海と人の脆弱性をどう捉えるか、科学者として視点がかいまみられます。ご拝読下さい。

William Cheung Dr. Shinichi Ito Lab University of Tokyo

ウィリアム チュン:科学者は、気候変動における議論の形成に重要な役割を担っている。

しかし、William Cheung博士にとっては、それ以上のことだと言う。科学者とは、まだ世に知られていない問題をより深く探究し、人々に着目させるべき立場にあるというのだ。

Cheung博士は、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)漁業センターの准教授であり、Changing Ocean Research Unit (CORU)の代表も務める。彼は、東京大学で開催された気候変動に関する国際パネルディスカッションに招聘され、研究仲間とともにIntergovermental Panel on Climate Change (IPCC)との共同研究に関する発表を行った。

Cheung博士はこう話す。
「IPCCでは、気候変動の問題、とりわけ海洋における気候変動に関して議論している。私は、その中で科学者がいかにその役割を果たしていくべきかということについて、自分のビジョンや意見を話した。その際、ネレウスプログラムをケーススタディとしてとりあげ説明した。というのも私自身、科学者はいかに科学的知見をもって政策へ提言をしていくべきかをネレウスプログラムを通して常に自問自答しているからである。」

ネレウスは、経済から政策まであらゆる分野を横断して効果的に情報共有をしている科学プログラムの先端的な事例である。ネレウスプログラムが行っている研究により、国際的なレベルで議論されるべき重要な問題を、より政策に近い人々、また一般に提起し、周知していくことができる。

特に、Cheung博士は、この科学者の一歩踏み込んだ役割が重要となる例として、先住民の漁業における実地調査をあげた。

「先住民の漁業問題は、気候変動に関する議論においては十分に取りあげられていない。しかし、ネレウスが研究を進める中で、先住民グループは環境の変化を特に受けやすいということがわかっており、我々は先住民の漁業問題を非常に重要な議題として捉えている」
とCheung博士は続ける。

パネルディスカッションの際にあがった大きな議題の一つは、研究における科学者の実践的な役割についてであった。科学者は、単に情報を提供するだけでよいのだろうか、それとも問題提起する立場をもとるべきなのか?

Cheung博士は、適度なバランスを保つべきだと強調する。

「我々は、[先住民グループ]の利益を追求したいわけではない。我々が明確にしたいのは、彼らは脆弱なグループであり、公平に扱われるべき人々だということなのだ。」

ブラジルのサントス市において、3月23日から27日にかけ「第3回国際シンポジウム-気候変動における世界の海洋への影響」が開かれ、多くの議論や討論が行われた。Cheung博士にとっては、ネレウスの研究が、気候変動における漁業への影響を注視する最新の方法になりつつあるという手応えを感じる良い機会となった。

Cheung博士の講演は、『Transforming fisheries management to build climate-resilience in seafood security of coastal countries』という、適応に焦点を置いたものだった。

「私の研究は、国際漁業ガバナンスが、沿岸国、とりわけ気候変動の影響を受けやすい国の人々が短期的な変化に適応するのをいかに手助けしていくのか、幅広く多様な尺度で見ている。」

残念ながら気候変動は避けらないため、その状況に適応することが適切な対処の仕方である。しかしながら、変動のパターンを理解し、この知識を漁業管理に融合させるか否かで我々の[海の]未来は大きく変わってくる。

Cheung博士はこうも語る。
「我々がどんな措置をとったとしても、気候変動によって今後20〜30年の間に海の構成要素は変わってしまうだろう。ただ、一つ我々がすべきことは、漁業と海に関する他のセクターが変化に適応するために、いかなる選択肢が残されているかを明示していくことである。」と。

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