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食糧保全と持続可能性の間で

ネレウス太田です。

今回は、ナイジェリア出身のネレウスフェロー、ムハマドのブログです。養殖への気候変動の影響を研究するかれは、政策的な議論にもよく踏み込んでくれます。

世界の養殖は水産生産の50%を含めるが、10%のみが高級魚、その他は淡水魚であるから、養殖魚がタンパク源として食糧危機への対応策になる可能性は無視できない。

しかし、そのコストはそして本当に養殖の発展が食糧危機の解決に効率的なのか?養殖がビジネスである現実を見て、魚の分配や養殖が引き起こすかもしれない「経済的問題」について彼は懸念しています。

「自由の最大の危機とは批判が世の中から欠如すること」ナイジェリアのノーベル作家ウォーレショインカの言葉を噛み締めながら、(理系の)博士号取得に邁進するムハマドの寄稿をご一読ください。

Image: "fish market wide crop" by Jim, CC BY-NC-ND 2.0.

Image: “fish market wide crop” by Jim, CC BY-NC-ND 2.0.

食糧保全と持続可能性の間で
by Muhammed Oyinlola, Nereus Fellow

私たちは、どこへ行こうが無意識のうちに「私はここにいたのよ」と言いたげになんらかの痕跡を残している。カフェのマグカップに残した指紋、スーパーマーケットでかわす笑顔、仕事場では同僚にアドバイスしてみたり、はたまた他人の問題に首を突っ込み解決しようとしてみたり。(ここでは良い部分に注目しよう。)しかし、私たちは意識的に、また無意識のうちになんらかの問題を作り出している。一つ確かなこと。それは、良くも悪くも我々は確実に自分たちの一部を後に残しているということである。

人は、人生に立ちはだかる障害に挑む。最初の壁を乗り越えては、また新たな壁を作り上げ、さらに作り上げては乗り越えるというループにはまっていく。産業革命と気候変動がその良い例だろう。私たちは、技術を構築したり製品を製造することで、物事を簡単に楽にしようとしてきた。そしてその結果、二酸化炭素、メタンガス、亜酸化窒素のような温室効果ガスの大気中の濃度を上昇させることとなり、今まさに気候変動の問題と直面しているのだ。

世界の人口は2050年までに90億人となり、過去最高となるだろう。そこで我々の新たな探求として、「どのようにして世界の人々に食料を供給するか」という命題が生まれる。また、この生理学的欲求は、必ず満たされなければならないのだ。人間は、この難問を解決するために、その知性と母なる大地から授かった天然資源を利用するわけなのだが、これらの資源を保護することも無論我々にとって重要である。それは、私たちが美しい珊瑚に囲まれた自然の海で泳いだり、野生生物を眺めては楽しみたという欲求からだけでなく、次世代の人たちに何かを残したいからなのである。残念なことに、魚を食料として供給するためには、世界中の魚資源を活用し、それによって海洋生物のすみかである海底や礁などを破壊してしまうだろう。絶滅を迫られる魚種もあるだろうが、それでも私たちは、人々に食を提供し、環境を保護しなければならないのだ。

Image: "Bytemarks" by Aquaculture, CC BY 2.0.

Image: “Aquaculture” by Bytemarks, CC BY 2.0.

私たちの「幸福の追求」と漁場環境の低下の現状の解決策の一つとして、魚を育て、自由に収穫することが出来る養殖技術を開発した。養殖は、食糧保全のための有用な解決策であることは間違いない。事実、今日私たちが食している魚(魚、甲殻類、軟体動物、両生類と他の水生動物を含む)のうちの半分が養殖であり、また世界中の多くの発展途上国においては、養殖業によって雇用がうまれ、人々の生活を支えているという側面もある。しかしながら、我々は今、養殖をすることによって生態系への痕跡、影響を残していると言えるのではないだろうか。数十年前は、養殖がどんなダメージをもたらすのかを予見することはなかったが、近年、養殖における環境持続可能性について問われている。

我々が食物を確実に確保するため行った活動による成果がすでに大きく表れている。クイーンズランドやチリで起こっている、生理科学的な特性や底生植物の生態系のマイクロ植物相の多様性を変えてしまう養殖場からの有機廃棄物、長期にわたる生態学的、また進化への影響も考えられる科学物質および薬の環境汚染、そしてインドネシアやタイでのエビの大量生産によるマングローブの破壊も忘れてはならない。その例は数えきれない。

人間は、期待に応えなければならない。養殖は技術革新によって発展し続けてきた自然の力であるが、さらなる改善の余地があるだろう。私たちは水産養殖によって直面する現在の問題、気候変動問題に加えて将来的に養殖をどのように取り入れていくのかを考えねばならない。「食糧保全と持続可能性」をみなが納得した上で、いかに一行に書き収められるかを追求していく必要があるのだ。それによって、私たちは持続可能な環境と日々の食卓にあがる魚、この両者を確保するためによりよい方針を作りあげることができる。


Muhammed Oyinlola
ムハンマド・オイニョーラ、UBC
ムハンマドは現在ブリテッュコロンビア大学でPh.D取得を目指す。彼の研究は養殖による世界の水産物における気候変動と海洋の酸性化の影響について。

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