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海をイラスト化する:海洋生態系の複雑さを描くための過程

By Jenn Paul Glaser, Nereus Program Consulting Artist
[email protected]   www.scribearts.org
Jenn Glaser cod

プロセスを探るS

ネレウスアートワーク創作(支援:日本財団)

このブログでは、日本財団ネレウスプログラムの美術コンサルタントとして携わった共同プロセスについて検証する。私は、我々が住む惑星の海洋と漁業の美しさと複雑さを讃える、17のイラストレーション製作を依頼された。最終的にこのアートワークシリーズは、ネレウスの指揮の下、スタッフ、ネレウス科学者の国際ネットワーク、経済学者、政策立案者が、18ヶ月間に渡り協力し、創作された。私は、世界中の6機関からの素晴らしい賢人たちと協力して取り組んだことを光栄に思う。私たちの目的は、最先端の研究を土台として、自然の概念を絵画的デジタルコラージュで産みだすことだった。作品の中には、少なくとも16の多様な海洋生態系の中で、合計約30種が描かれている。

これらのイラストには、チャートや言葉を入れていない。そうすることで、観る人自身のストーリーを完結させることを促し、観賞後はおそらくこの広く自由なテーマについて学びたくなるだろう。私は、以下のテーマ、漁業に関わる費用、海洋肥沃化、海洋漁業モデル、養殖、および公海ガバナンスについて描いた。

最終場面はまだ決定されていないが、このイラストの概念の本質は、あらゆる方法で海の物語を展開できるということだ。

過程

要約

振り返ってみると、それぞれの製作過程で、線から混沌とした絵となり、そして思いがけないイラストを生み出すという、漠然と予想していた道を辿った。何日か調査をして描いていくうちに、自分が煮詰まってしまい、要素をアレンジし直したり、失敗してしまうことに気づいた。 苛立ち、変更を加えたものを保存し、コンピューターから立ち去った。

そしてまた戻ってきた時、私の脳スイッチが切られたかのようであった。コントロールしようと格闘するのではなく、イラストを作り上げていった。それは、穏やかな海で追い風に吹かれているかのようで、常に科学的な方向に、そよ風でボートを帆走しているかのように進んでいったのだ。

第1ステップ:ブレインストーミングとスケッチ

Ocean Circulation and Mixing Illustration

海洋循環とイラストを混ぜたもの。左:ブレインストーミングスケッチ。右:「太陽に照らされた表面に栄養豊富な海の風力湧昇」をテーマに、ガラスのような質感を備えた、海洋循環とイラストを混合した粗描[1]

イラスト製作の第一段階では、ネレウスのコンサルタントであるRyan Vachonと科学のオリエンテーションとブレインストーミングを行った。Ryan は、このシリーズを思い描き、それぞれのテーマで鮮やかに科学を紹介してくれた。私たちは一緒にブレインストーミングをして、紙切れに「ひらめき」のスケッチを走り書きした。例えば、 Ryanが海洋循環と南アメリカ沿岸沿いの湧昇流について話している時には、その柱となる物理的性質を想像し始めた。フンボルト海流によって起こる栄養豊富な湧昇流の中で、沿岸の風で激しく打つ波を調査船から見ているような感覚に襲われた。

スケッチと一回目のミーティングはまだ始まったばかりだった。科学の複雑さを知らずに科学に魅了されていた。ブレインストーミングと走り描きから本格的な概念を創り出すことは、実際に描くことより時間がかかった。大抵、イラストの創作に必要なリサーチと参考文献を特定するのに24時間から36時間を費やした。

Ocean Circulation and Mixing

Ocean Circulation and Mixing by Jenn Paul Glaser.

どのように私のイメージを発展させたのか。Ocean Circulation and Mixingの場合、湧昇流のリサーチに没頭した数日後、ARKive videosが、ケープシロカツオドリを写している映像を見つけた。そこから最終的なインスピレーションを得た。ペルー沿岸を飛ぶカモメ が、海面直下に横たわる余りある魚の群に飛び込んで行くビデオだった。息を止め、泳ぎまわる魚群からイワシを掴み取る。同様に、イワシは、太陽からエネルギーを得て酸素を含み、冷たい海の中に溢れている植物プランクトンと動物プランクトン(Arcartia danaeを含む)を堪能し、泳ぎ回っている。

イラストのコンセプト:ネレウスフェローから得たこと

このイラストのためにAndre Boustany(デューク大学研究員/ネレウス同窓生)が書いてくれたエッセイ「Land-Sea Linkages: The Role of Land-based Dust in Open Ocean Productivity」のおかげで、Pelagic Ocean Fertilizationは容易にイメージすることができた。Andreの明確な説明を受け、リサーチに何時間も費やす必要もなかった。

アフリカ大陸を東から西に駆け抜ける強風のため、砂埃がサハラ砂漠や高い大気中に運ばれてくる。この砂埃は、遠くはカリブ海、北アメリカ、南アメリカまで運ばれ、そこに積もる。北アフリカで起こる嵐が、何千マイルも離れた沿岸のクジラや海鳥に影響を与えているのは、一見奇妙に思えるのだが、実際に地球全体がどのようにつながっているかが分かる例である。
~ Andreのエッセイの一部より

Pelagic Ocean Fertilization sketches-01

遠洋の肥沃化のスケッチ。左:Andre Boustanyのエッセイから生み出したデジダル構想スケッチ、右:2度目のコラボ会議中に描いた手書きのメモ。北アフリカ砂丘の噴煙を起こす風をさらに正確に描いた。

この章を読んだ瞬間、イラストのコンセプトが私の頭にふと浮かんだ。また、非常に離れた砂漠間(遠洋の大西洋とサハラ)にびっくりするような世界のつながりを想像した。最終的なイラストでは、北アフリカの砂丘を削ぎ取り、わずかに居住者のいる外洋に向かって動く大規模な噴煙を描いた。遠く離れた海では、植物プランクトンや動物プランクトンからタイセイヨウセミクジラ(Eubalaena glacialis) と大西洋サバ(Scomber scombrus)へ、下位から上位への食物連鎖を活性化させるために、栄養素の交わりが減る。

Final Ocean Fertilization illustration.

Jenn Paul Glaseによる海洋肥沃化の最終イラスト

私は、ブラシをスタイラスペンに、キャンバスをタブレットに持ちかえて、海洋環境と生き物それぞれのイラストを手書きすることから始めた。次に、これらの詳細なスケッチをデジタルコラージュしていった。そして、これらの詳細なスケッチにテクスチャを切り貼りしていく作業にとりかかった。私は、国際通貨を「Cost of Fishing(漁業コスト)」に、マイクロチップを「Ocean and Fisheries Modeling(海洋漁業モデリング)」に、国旗を「High Seas Governance(公海ガバナンス)」に、古代ローマ時代のモザイクタイルを「Aquaculture(養殖)」に使用した。[3]

タラ(Gadus morhua)をさばく:科学のデジタルコラージュを作成

例えば、 Ocean Recoveryのコラージュは、大型冷凍トロール漁船の増加と1990年代の急減な衰退、「野放図な漁業を行った1000年間」の後、ニューイングランド沖におけるタラの不安定な回復状況に焦点を当てている。

Jenn Glaser Ocean Recovery FiletingCodfish

私の手書きのタラ描画の中に、1800年代の漁業記録からの断片を切り貼りした。脆弱な回復は?沿岸のアマモの中を泳ぐために海の産卵場所から戻ってきた仔魚のタラにはlog pageを使用している。トロール船は?1600年代のコモンズの悲劇(経済学の法則)をほのめかしたイギリスの祈祷書を使用した。

科学的精密さにより全てを決めることができたが、コラージュとペインティングを結ぶ過程は直線的ではなかった。デジタルで描画し、半透明な質感を出す要素を精巧に重ねるために何度もやり直した。互いの上に半透明のステンドグラスを積み重ねるように。少しずつ、別世界の風景のようになったコラージュを描いていった。

Jenn Glaser Final Ocean Recovery illustration.

Final Ocean Recovery illustration by Jenn Glaser.

ネレウスフェロー、未来の海を調査する

2014年12月 UBC Peter Wall Roundtable:会議とネレウスリーダーから学んだこと

Nereus:UBC Peter Wall Roundtable (Dec 2014)

Nereus Program / UBC Peter Wall Roundtable (December 2014): Nereus students, fellows and staff. (Jenn Glaser photos).

2014年12月に開催された日本財団後援の Peter Wall Roundtableを元に、最後のイラスト製作を依頼された。招待された芸術家として、ネレウスフェロー、学生、スタッフが「気候変動の下で、世界の水産物需要は賄えるのか」という問題について議論するワークショップに参加した。

Future Oceansのイメージは、 Roundtable参加者が提示した音楽的な例えにインスパイアされて作られた。 Andrés Cisneros-Montemayor(ネレウスフェロー)は、Future Oceansのイラストに描かれている利潤関数方程式を送ってくれた。彼は、Aerosmith / Run DMCビデオについても話していた。私宛の彼からのメールには、次のように書かれていた。

人間には魚が「必要」なのかどうかを討論していた時が一番記憶に残っている。答えに白黒つける問題ではなかった。最終的には、少なくとも短期から中期的にみな同じことを望み、同じ行動を起こしたいのだと、同意した。例として、Aerosmith / Run DMCのビデオ‘Walk This Way’を見たことがありますか?

参加者の一人Jack Kittinger(Conservation International ハワイ支部シニアディレクター)は、このワークショップをジャズになぞらえた。「不協和音で始まるジャズアンサンブルを考えてみて欲しい。一緒にに音楽を作るかのように、我々は幾つかの良いポイントにたどり着いた。」という異なったアイデアと展望を表現した。

Jenn Glaser Future Oceans illustration

Future Oceans illustration, informed by Nereus fellows, staff and students (March, 2015).


[1] Ayón, Patricia, Criales-Hernandez, M.I, Schwamborn, R. & Hirche, H-J. (2008). Zooplankton research off Peru: a review. Progress in Oceanography, 79, 238-255. http://www.o3d.org/web_db_data/articles/10/Ayo%CC%81n-10.pdf

[2] Note: It took hours of research to locate what I thought were specific phytoplankton and zooplankton species. Even though my illustrations were conceptual, the goal was to ensure they were firmly grounded in science.

[3] Note: In keeping with copyright laws, I did not use any photographs or artwork as textures. Instead, I drastically altered generic textures that I found online, ranging from rusted metallic patinas and snippets of Italian glassware and ancient Roman mosaics; to papyrus paper, NOAA maps, and liquid crystals to scans of specialty papers that I purchased. Using Adobe Photoshop software, I would resize and colorize textures to achieve the final effects necessary to any particular marine scenario or species. After cutting-and-pasting these altered textures into an illustration, I further changed them through complex layering, coloring. Often, two or three different collages would be layered on top of each other. Final alterations were made by digitally hand-painting the images to breathe into them as much light and form as possible.

[4] Kurlansky, Mark. Cod: A Biography of the Fish that Changed The World. Penguin Books (New York): 1997, P. 14

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