植物プランクトンは、ほとんど全ての海洋生物にエネルギーを供給する根幹を為す。植物プランクトンの量により、その海域で捕獲できる魚の生息量を予測できそうに思うかもしれない。しかし、ネレウスプログラムの研究者による新しい研究では、この関係はそれほど単純ではないことを示している。
「様々な海域の潜在的な漁獲量を推定するために、食物網のベースとなる植物プランクトンの成長の測定値を用いることは、海洋学者の長年の夢であった。これら2つの量は関連しているはずだが、食物連鎖には、単に植物プランクトンの成長を魚の成長に変換できない複雑な段階がある。」と筆者であるRyan Rykaczewski(サウスカロライナ大学准教授/ネレウスプログラム同窓生)は話す。
PNASに掲載されたこの研究では、食物網のベースから魚へのエネルギー移動を仲介するプロセスを調査するために数学的モデルを使用している。筆者らは、海面と海底の生態系におけるエネルギー源の送り方により、漁獲量に大きな地域差が出ることを発見した。
「深海から潮流を介して「湧き出る」、植物プランクトンの成長に不可欠な栄養分を大量に含む沿岸システムにより、世界の漁獲量は、植物プランクトンの産出のみからの予測をはるかに超える。」と筆頭著者であるCharles Stock(NOAA/Geophysical Fluid Dynamics Laboratory研究海洋学者/ネレウスプログラム主任研究員)は話す。
これらの知見により、異なる生態系における漁獲可能量のより正確な把握と気候変動が漁業にもたらす影響の予測を可能にする。植物プランクトンは、漁業を行うのに足るエネルギーを生み出すために、海面に見られる光と深海に蓄積する栄養素を必要とする。気候変動による海面の温暖化は、深層水と表層水の分離、海洋成層を増加させている。この影響は、低緯度、中緯度地域で拡大し、植物プランクトン生産の小程度から中程度、15%まで減少し、漁獲量が50%以上減少する海域も予想される。
「頂点捕食者や中間捕食者である魚を調べると、プランクトン間の食物網のベースにおける変化が増大している。これは、気候変動が、食物連鎖の上位においてより大きな影響を海洋生物種に及ぼすことを示している。海の食物連鎖上位の魚には、世界の人々がタンパク質源として依存している種も多くあるため、この結果は私たちの生活に直接関係する重要な意味を含んでいる。」と話すのは、 Rebecca Asch(イーストカロライナ大学准教授/ネレウスプログラム同窓生)である。
気候変動が漁業生産に及ぼす影響についてを漁業管理者や政策立案者へアドバイスする際に、この研究により信頼度がさらに高まる。著者らは、漁獲可能量の潜在的に大きな地域的変化を考慮した生態系に基づく漁業管理戦略と、そのような変化に対応する制約を改善する必要があると指摘している。
この研究“Reconciling fisheries catch and ocean productivity” は、米国科学アカデミー紀要 (PNAS)に掲載された。執筆には、William Cheung(ネレウスプログラムディレクター・科学/ブリティッシュコロンビア大学准教授)、Vicky Lam(ブリティッシュコロンビア大学ネレウスフェロー)、Jorge Sarmiento(主任研究員/プリンストン大学教授)も参加した。