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本日の魚:なぜ水産物の旬は問題なのか

By Wilf Swartz(ネレウスプログラムマネージャー/リサーチアソシエイト)

季節ごとの食べ物を日本語では「旬」と言う。旬とは、ある特定の食べ物が、最も味の良い出盛り期のことである。現代社会では、多くの食べ物に「季節」を感じる事はあるが、残念ながら欧米では魚に季節を感じる事は少ない。「旬」を魚には感じる事が少ないのだ。いろいろな食べ物を旬の時期以外に味合うことができるが、 その食べ物から連想されることは変わらない。 いちごは初夏を、かぼちゃ、特にパンプキンパイや芽キャベツからは、落ち葉の音や七面鳥や感謝祭を連想する。そう、七面鳥には季節性があるのだ。中世には、寒い冬の夜に燃え盛る火の上でシカ肉が代わりに焼かれていたかもしれないが。言い切れないほどまだまだあるが、水産物は違う。ほとんどの水産物がなぜかその対象から外されているのだ。

海の恵みに関して言えば、ニシン、タラ、マグロを食すのに最も適した時期、または適さない時期はいつなのだろうか。私たちは、魚を季節のものとして捉えなくなってしまった。

During the harvest season, wild British Columbia spot prawns (Pandalus platyceros) are available live for a short six to eight weeks each year. Image: "Spot Prawns" by Ruocaled, CC BY 2.0.

ブリティッシュコロンビ州のボタンエビは、毎年6週間から8週間の短期間のみ手に入れることができる。 Image: “Spot Prawns” by Ruocaled, CC BY 2.0.

そして、カナダの他の都市に比べ、魚や漁業とより調和しているバンクーバーに住んでいると多くの人に見られる傾向なのだが、ほとんどの人がサーモンはいつが旬なのかに気づいている。それなのに、旬とはかけ離れた2月中旬に、地元の寿司レストランでサーモン巻き寿司を注文することをためらう人はまずいないだろう。

私たちの水産物消費は、「本日の魚」から「いつでも手に入る魚」 になってしまい、季節に関係していない。

実際には、水産物に旬がなくなったわけではない。事実、自然が供給する数少ない食料源である魚は、間違いなく他の主要食料源よりもその生産性に季節変動の影響を受け易い。単に私たちにとって、季節感がなくなる数ある理由を見逃すほうが都合がいいのだ。

水産資源は、地元の漁場を出たり入ったりと回遊する。地元で大漁の時もあれば、不漁の時もある。産卵期には、魚体に科学変化を起こす(例:脂肪分の減少)ので、風味は年を通して異なってくる。しかし、今では、冷凍技術の発展と世界の物流ネットワークの拡大により、小売市場は一年を通して、世界の至る所まで、特定の魚種(またはそれに近い魚種)を供給できる。実際には、これが地元漁業での季節的変動を覆い隠してしまうわけである。水産物消費は、「本日の魚」から「いつでも手に入る魚」となり、季節感を無くしてしまう。

しかし、旬の水産物を食べることには利点がある。

生態学的に言えば、旬の魚に執着すると、ターゲットにする魚種を多様化し、基となる海洋生態系のいたるところに漁業の影響をまんべんなくばらまくことが出来る。近年、提案されてきているそのような釣り合いの取れた収穫戦略により、持続可能な漁業を支持するという点でも、漁業のネガティブな生態系への影響を和らげるのに役立つだろう。

経済に関して言えば、旬の魚を消費することで、漁獲ピーク時に供給過剰となり値崩れする可能性を和らげる。漁業が、不良期に蓄積される繰り延べ需要を利用することが出来る状況を作り出すことで、大漁期の追加供給は追加需要に吸収される。ここで、ブリティッシュコロンビア州のボタンエビの例が思い浮かぶ。

Most people eat strawberries when they're in season, so why is salmon any different? Image: "Strawberry Fields" by djjewelz, CC BY-ND 2.0.

旬にいちごを食べる人がほとんどなのに、なぜサーモンは違うのだろうか。 Image: “Strawberry Fields” by djjewelz, CC BY-ND 2.0.

漁業で対象にする魚種の「ポートフォリオ」を多様化することで、漁業が特定の資源の変動にうまく対処し、専門漁業に含まれる固有の危険を和らげるのに役立つだろう。さらに、旬の水産物の販売促進キャンペーンにより、「主流」の物ではなく、現在は混獲として扱われる魚を新しくマーケティングする機会を生むこととなり、多種漁業の経済を強化するだろう。

では、家庭レベルにはどんな利益を生むだろうか? 旬の地元水産物を消費に移行することで、必然的に地魚の消費につながる。それが地元の漁業コミュニティーに良い影響をもたらすことになるだろう。小規模の漁業操業は、一年を通して季節ごとに対象にする種を変えたり、漁業のための索具を変えるなど柔軟である必要があるが、エネルギー効率が良く生物的持続可能性であると一般的に認知されている。遠洋で操業し、対象にした魚種の移動を追うよりも、漁師の社会経済的状況を高めるので、船舶が地元の漁場近くで操業する。まさに、地産である。

問題は、私たちの購買や食習慣によって、旬の水産物に戻る大きな漁業転換を促進できるかということだ。

OceanWiseSeafood Watch のような「旬」の消費者ガイドがスタートとなるだろう。そして、旬の水産物キャンペーンが実行できるのか、また持続可能な漁業促進の効果を確実により詳しく調査する必要がある。

しかし、きっと最善の解決策は、科学とは関係ないことなのかもしれない。そう、これら左脳派と右脳派もしくは私たちが冗談まじりに「無能派」と呼ぶ人たちが解決の重要な役割を担うのかもしれない。つまり、旬の物を食べるということはすばらしい、と、感情レベルで人々に本能的に訴えるというコンセプトである。そして、メッセージは、「生態的メリットのために旬の魚を食べよう」ではなく、「我々の心理的メリットのために旬の魚を食べよう」とすべきだ。言い換えれば、旬の物を食べると気分があがる、なぜなら季節に寄り添いながら生きる事はが気分がいいことだから。

旬の魚を今一度、社会的意識と地元の食に取り入れる時が来ているのだ。


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ウィルフ・スワーツ博士, 漁業経済
ネレウスプログラムマネージャー/リサーチアソシエイト

現在の研究では、水産物のサプライチェーンに焦点を当てる。また水産業のCSRポリシー、養殖の持続可能性、傷みやすいという制限がある場合の価格設定メカニズムのモデル化(例:日本の鮮魚市場)の研究を行っている。

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