10月5日、世界最大の自由貿易圏となる12カ国によるTPPが大筋合意に至った。日本、カナダ、アメリカ合衆国、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール、メキシコ、ベトナム、オーストラリア、ベルー、マレーシアの協定国を合わせると、世界経済の40%を占める。TPPは、魚介類への関税が排除されることによって、協定国間でこれまで以上に輸出入される可能性が出てきており、新しい環境基準や労働基準の導入が不可欠である。
ウィルフ・スワーツ博士(ネレウスプログラムマネージャー/リサーチアソシエイト)は、日本でのシーフードサプライチェーン管理や水産業の政策、また水産市場について研究している。ここでは、TPPが漁業や水産貿易にどのような影響を与えるかを考察する。
TPPのどの側面が水産貿易に関係してくるのか?
関税、規約、助成の3つの主要構成からなっている。関税は、外国製品との競争から国内産業を保護するために輸入品に課せられる税金である。TPPの主要目的は、関税を排除することによって、貿易を活気づけることであり、これは水産物も例外ではない。貿易を簡単にするもう一つの方法は、環境基準を含め、様々な規約を標準化することである。TPPのすべての協定国は、水産業において持続可能な漁業管理を保証すること、重要な海中生物の保護を推進すること、違法漁業を排除することが求められる。TPPに含まれる最後の項目は、助成金である。これは、過剰漁業に対する助成を差し止めることに合意している国々、また違法漁業へと流れている助成金に関する内容である。
これらの協定は水産業にどのような影響を与えるだろうか?
全体として、この影響は取るに足らないものだと考える。日本市場がより開かれるだろうと考える人が多くいるのだが、そうはならないと推察する。日本の歴史から見て、水産物はもともと日本にとっての輸出産業であった。そのため、日本は水産物の貿易を推進するために低い関税政策を推し進めてきた。しかし過去20年間で、日本は主要な水産物輸入国となった。日本の水産物市場では、ほとんどの輸入水産物に5%以下の関税が課されており、すでにかなり入手しやすくなっている。そのような低い関税下では、日本における外国産の水産物の競争力への影響は、関税の廃止によってではなく、為替レートなど他の要因により決定する。そして、アメリカ合衆国をはじめとする他の大きな水産物市場では、さらに低い関税が課されている。例えば、ロブスターに課せられる関税は、現在日本では5%でアメリカ合衆国では0%である。この5%の関税を取り除いたとしてもほとんど変わらないし、 TPPがすでに低い関税が課されている世界のロブスター市場を大きく変えることはないだろう。
規則の標準化に関して、TPP がどれくらいの影響を及ぼすかを言及するのは難しい。持続可能な漁業管理と違法漁業の排除を必要条件とするのは正しい政策ではあるが、これらの正しい標準化においてもその細部に落とし穴は潜んでいる。たとえば、「持続可能な漁業管理」の明確な定義を確立することは、それ自体非常に困難な事であり、国際交渉において合意できる定義の実現は不可能に近い。 事実、WTOは2001年からこの課題に取り組んでいるが、未だ大きな前進はなされていない。これらを勘案すると、TPPによって国家レベルでの漁業規則に具体的な変化が起こるとは思えない。
そしてまた、助成金に関しては、TPPが合意したものがWTOで討論されていたものよりもかなり脆弱だということがすでに分かっている。そのため、TPP協定国の中で漁業助成金を供給する主要国である日本においては、TPPが助成金事業に影響を与える事はほとんどないだろう。
これらの大きな貿易交渉では、様々な産業が孤立して交渉されるのではなく、パッケージで交渉される。漁業は、国全体の経済の中では小さい部分を占めるにすぎず、国が関税交渉をする際に、漁業のために大きな妥協をすることはないだろう。つまり、漁業が交渉の重要な変数になることはなく、逆に足を引っ張ることもない。だから、私たちは、TPPによる大きな展開を期待していない。違法漁業に対し厳しい態度が望まれることは、当然である。何より、違法漁業を防ぐために欠如しているのは規約ではなく、規約の施行(拘束力や実効的な取り締まり)なのだ。
では、協定国にとってプラスの影響はあるのだろうか?
はっきりとは言えないが、小規模での勝ち負けはあるだろう。現在高い関税が課されているマレーシアやベトナムのような国では、これらの市場を対象としたニッチ生産者にとって小規模な利益幅は生まれるかもしれない。また、労働基準や食品安全に関する変更のような漁業以外の分野での合意により、思いがけない影響はあるかもしれない。
カナダの消費者はどのように影響を受けるだろうか?
あまり影響はないと考える。水産物に課されているカナダの関税はすでにとても低く、消費者レベルで輸入品の増加や価格の低下を認知することはまずないだろう。
By Lindsay Lafreniere