ゴジラ。ブルースリー。今年のエルニーニョは史上最大規模の恐れがあるとして、エルニーニョに名付けられる名前がその予想される勢いを形容している。しかし、エルニーニョとは何なのか、海や漁業に何の影響があるのか。
ライアン・リカゼウスキー(南カリフォルニア大学助教授、元ネレウスプログラムフェロー)は、過去や将来の気候変動性や気候変動における生態系の反応と漁業生産についての研究を進めており、過去のエルニーニョの影響についての論文を発表している。ここでは、エルニーニョの基本や、次に来ると予想される。
エルニーニョが、なぜ海洋生態系、漁業、魚、哺乳動物に破壊的影響を与えるのかを説明している。
エルニーニョはどのようにして生じるのか?
熱帯太平洋では、通常、貿易風が東から西へ、中央アメリカからアジアへ向かって赤道沿いに吹いている。これらの風によって、南北両アメリカの西海岸沿いや東太平洋の赤道沿いの冷たくて栄養豊富な海水の湧昇が誘発される。対照的に、西太平洋の海水は通常暖かい。しかし、理由は解明されていないものの、エルニーニョの期間、貿易風が弱まったり、ときどき逆風になったりもする。貿易風の弱まりが、冷たい海水の湧昇を抑制し、異常に暖かい海水の波が南北両アメリカ沿岸に向かって跳ね返る。1997年と1998年に起こった最大規模のエルニーニョ発生期間、海面温度は東太平洋の平均海面温度よりおよそ2.5度高かった。
なぜ今年のエルニーニョは特に懸念されるのか?
すべてのエルニーニョは異なる。どれが最大で最悪なのかまだ分かっていないが、この研究に用いたモデルは、エルニーニョが非常に大きくなるだろう、おそらく最大なるだろうと示唆している。このエルニーニョが発生する前に、すでに太平洋の北アメリカ沿岸には温暖水( “the blob”) があった。この海水はすでに比較的暖かったのに加え、今、このエルニーニョが海水をさらに暖かくしており、この二つが合わさることによって、今回のエルニーニョの影響が増大するかもしれない。
地域的、または世界規模で、どのような影響がみられるだろうか?
海洋生態系の生産性が著しく低下しているペルー沿岸、熱帯東太平洋への影響が最も大きくなるだろう。その他の主な影響としては、アメリカ太平洋沿岸で起こっている降水量、土石流や地滑りが予想される。その一方で、インドネシア、オーストラリア、インドでは干ばつが予測されている。エルニーニョの影響が赤道近辺で増し、継続すると、中緯度や高緯度の場所でも影響が見られる。太平洋沿岸の北アメリカ大陸北西部では、異常に暖かくなり乾燥した気候になるだろう。
海洋や漁業への影響は?どんな魚や哺乳動物が影響を受ける?
エルニーニョ現象が起きている間は、世界で最大の単一種漁業である ペルーのアンチョビー漁 はいつも衰退する。通常、数億メータートンの魚がペルー沿岸のこの地域で漁獲されるのだが、これから迎える12月から2月の間には豊漁は見込めない。これは、アンチョビ漁に関連する経済や産業に破壊的な影響を与えるかもしれない。
北アメリカ沿岸では、特に、マグロ、クジラ、海鳥、アザラシ、アシカなどの多くの種の捕食魚であるアンチョビを筆頭に、冷水域の漁業資源の減少を予測している。北アメリカ沿岸でのアンチョビの損失は、このような高次捕食者にも影響を与えることにつながるのだ。さらに、座礁したアザラシ、アシカ、クジラをよく見かけることになるだろう。しかしながら、亜熱帯種や熱帯種は暖かい海水を好むので、これらの種はより豊富になるだろう。また、バンクーバー、北カリフォルニア、オレゴン、ワシントン沿岸のような地域では、マグロ、メカジキ、カマスサワラ、マヒマヒといった熱帯種が通常以上豊富に漁獲されるだろう。一見良いことに思われるかもしれないが、沿岸近くに温水種が存在するということは、既存の冷水種が好む海水状態でなくなっているということだ。したがって冷水種は、本来の生息地から変位し、より北上することとなる。
加えて、一般的に温暖で低栄養の海水に見られる有害な藻類が発生する期間があることが予想される。特定の条件下で、有毒になる藻や植物プランクトンがある。これらは、いつも有毒というわけはなく、温暖で低栄養の海水中では、これらの植物プランクトンは、捕食者から身を守り全滅を免れるための毒を生み出す。エルニーニョの状況下では、北アメリカの西岸沿いで有害な藻が発生することが予測され、貝類、海洋哺乳類や魚への影響も考えられている。
今回のエルニーニョはどのくらい続くのか?
エルニーニョのような特定の異常な現象を6ヶ月以上先まで予測する能力は、まだ十分備わっていない。このエルニーニョが、北風の吹く冬の間、おそらく春まで発生するだろうことは確信を持って言えるが、2016年の春以降の予測は不確かである。
どのくらいの頻度でエルニーニョは発生するのか?
エルニーニョは、通常4〜7年ごとに発生する。ただ、これらの数字に確証はなく、エルニーニョが10年間発生しなかったり、連続して発生することもある。昨年は、比較的エルニーニョ現象が弱い年で、今年は強い年となり、これもまた確固たるものではない。1950年からエルニーニョが頻繁に発生したが、これが人間が引き起こした気候変動によるものなのか、自然の循環によるものなのかを言い切るには時期早尚である。
将来さらに強いエルニーニョが発生することは予測されるか?
さらに強大なエルニーニョが発生するかどうかは、多くの人の関心事だろう。将来の気候変動がエルニーニョの強度や頻度にいかに影響するのかについて、結論はまだ出ていない。しかしながら、この現象の強度を上げていることを示すいくつかの証拠はある。それでも、海洋生態系は様々な要因による影響を受けているので、慎重に判断すべきである。自然の気象条件が厳しくなる かどうかを明言するには早いかもしれないが、生態系の構成要素は、商業漁業、海洋酸性化、海洋貧酸素化のような他のストレス要因の複合的な作用により、さらに影響を受けやすくなるだろう。
By Lindsay Lafreniere